河出文庫。
タイトル通り洋の東西にのこされる摩訶不思議な奇談・伝承などを紹介している。
面白いのは、たとえばひとつの奇談にはたいがい他の国や地域にもその類例がみられるということ。
たとえば寝ている間に魂が肉体から抜けだし、さまよってまた元の身体にもどるというような幽体離脱的な話は、世界中に残されている。
その比較が本書の見どころだろう。
それは人間の普遍的な願望や、畏れの現れなのではないかと思う。
ウツボ舟の女、という話が紹介されている。
日本のいたるところに似たエピソードが残されているらしい。
ここでは常陸の国での話を代表として取り扱っているのだけれど。
透明で巨大なガラスの器のようなカプセルが漂着する。
中には女が乗っていて密閉されている。
閉じ込められているのかと思えば、べつに難儀している様子もない。
人々はコンタクトを試みたりするのだがどうにも通じない。
埒が明かない。
手をこまねいて扱いに困ってしまう。
挙句、結局また沖へと押し返してしまうのだ。
これは海の向こう、あるいは海の底という当時の人にとっての身近な未知に対する憧れの現れでもあるだろうし。
また同時に畏れと恐れに想像力をほだされて憶測や妄想が虚実ないまぜに形となったのかもしれない。
しかし面白いのが、似たような話が全国に残されているということだ。
たしかに海の向こうから言葉の通じない国の人が漂着するということは地域によってはあっただろう。
それが伝聞されていくうちにどの話にも似たような尾ひれがついたのかもしれない。
面白い。
どのエピソードもまとまりがないのがまた生々しい。
つまり売文を目当てに操作された形跡がないところが民話やこうした奇談・怪談・伝承のうまみだ。
そこにまたふんだんな余白を感じて、想像を刺激されてしまうのよね。
☾☀闇生☆☽