夜勤。
外構の生コン打設~保安。
雨の中、屋外で十二時間であーる。
朝の九時まで辛抱すれば、日勤の連中が来て交代する。
その後夜の九時まで彼らが保安して、またあたしら夜勤組に交代して再度十二時間。
問題は休憩の件だ。
仲間と交代でとれるが休める場所がない。
居場所がない。
あたしの人生と同じじゃないか。
雨宿り
という言葉を聞かなくなって久しいと思う。
通り雨をやりすごせるような『 軒下 』が街から消えていく。
ビルに軒下は無く、またあったとしても私有地として見張られている。
光が丘では歩道橋の下で雨をやり過ごしていた仲間が近隣住人に通報された。通行の邪魔だと。
車のないガレージなんぞに足を踏み入れればたちまち通報だろう。
今回の現場の近くにはトイレのある公園がある。
ベンチもあるがこの雨に濡れていて屋根はどこにもない。
雨が止んでも絶えず蚊が襲ってくるので仮眠もとれない。
先年、甲州道中( 旧甲州街道 )を歩いたことを思い出した。
不意の突風とともに襲ってきた豪雨に、思わず民家の納屋の軒下へと逃げ込んだ。
雷鳴が山間に反響して、窓が震えていた。
しばらくすると家からお年寄りが傘をさして現れた。
こりゃ追い出されるに違いない。と諦めていると、古びた傘を差しだして、
「これ、もう要らないボロだから」
と、その傘をくれた。
ケービの新人のとき、マンションのボイラーメンテナンス現場についた。麻布十番。
路駐した工事車両のために片側交互通行をしたわけだけれど、豪雨のなか現着し、さて玄関の軒下を借りて制服に着替えようとすると先輩隊員に袖を引かれる。そのまま屋外に連れ出されて事情を説明された。
先輩が指さす方をみると、管理人が腕組みして睨んでいるではないか。
仕方なく土砂降りのなかびしょぬれになって着替えた。が、荷物すら屋内に入れてもらえない。
先輩が貸してくれたビニール袋に荷物は入れた。
そして置く場所がないので、作業車の車体の下へ押し込んだ。
とはいえ、すでに車道は川である。
雨宿り
そうだ、その薄情なる現場でひとつ良い記憶がある。
通りすがりのサラリーマンらしきおっさんが「おつかれさまです」と缶コーヒーを差し入れてくれたこと。
彼はそれだけで去って行った。
ありがたし。
その気持ちに、頭をさげる。
マンションの管理人にも立場がある。自分ちではないのだからワタクシとしての勝手なお気持ちでどうこうできるわけもない。
それゆえ仕方なくであったか、あるいはドヤ顔であったかのお気持ち問題はどうでもいい。
一方リーマンのおっさんは、会社人とはいえその瞬間は通りすがりの個人だ。差し入れも労いの言葉もその自由なる心の範疇だ。
はて、あたしゃあのときのおっさんのようになれただろうか。
と夜更けのベンチで雨に濡れながら。
☾★闇生☀☽