壁の言の葉

unlucky hero your key

『NO SMOKING』

 佐渡岳利監督作、
 細野晴臣主演、
 ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』
 Blu-ray。

NO SMOKING

 この時代にこのタイトル。
 さすがですなー。
 あとは各々方が汲み取ればよし、なのであろうけれど、無粋にも煙草と音楽の共通性について取材側が質問をしている。
 細野さんの答えは『煙をくゆらせる』これが大事であると。
 音楽も同じ。くゆらせる、のだと。
 まさに煙に巻かれた形となった次第。


 けどね、
 これ細野ワールドには大事なエッセンスだとあたしゃ解釈しておって。


 かつて展開したトロピカル路線も、『外国映画のなかに登場する日本』といういかがわしさを、当の日本人が演じて見せるという。いわば煙を巻きつ巻かれつの快楽であって。
 世界中の音楽をごった煮にしたようなコンセプトも、日本から見た諸外国のあくまでイメージであって。曖昧であり、ごっこであることを真剣に愉しんでのことであったと思う。
 初期のYMOのビジュアルコンセプトもそうだ。
 海外が抱いていた虚実入り混じった日本的なるものを日本人が演じて見せるというユーモア。 
 人民服風の格好をして、最先端の電子楽器に囲まれ、当時バブルで海外に出没したおのぼりさん日本人よろしく首からカメラをさげて……。
 UFOだとかSFXだとかも虚実のあいまいを愉しもうという遊びの姿勢あってのもので。
 決して物事をクリアにしようとする行為ではない。


 そういえば『テクノデリック』のレコーディング中の逸話として、こんなことがありましたな。
 デジタルレコーディングの草分けとなる機材を採用することになっていたのだけれど、そのベースの録音はまずアナログで録ってからデジタルに落とすということにこだわったと。
 

 「煙があると落ち着く」


 うん。白黒つけたクリアじゃつまらんのよねー。
 丸見えはつまらんの。


 で、映画として。
 細野さんの音楽家としての経歴をさらうには、あまりに尺が短い。
 これは仕方がないのだけれど。
 個人的には、直前までエレクトロニカのようなことをしていた細野さんが、狭山で突然アコースティックのセルフカヴァーに回帰する『事件』に至るあたりが大きな転換期だと思うので、そのあたりをもっと掘り下げて欲しかった。
 これが今に続いている、と思う。
 といって本作はライヴ演奏がメインというわけでもない。
 経歴などを省いてツアー密着。もしくはレコーディング密着が見たかったなあ。




 ☾★闇生☀☽