原作・司馬遼太郎
監督、脚本・原田眞人
主演・岡田准一、柴咲コウ
幕末に名を刻んだ新選組副長・土方歳三の生涯を描く。
Amazon Primeにて視聴。
以下、感想。
・原作は若い頃に読んでいる。
分厚い単行本二冊にわたる大作のため、それをわずか二時間半ほどの映画にまとめるにはどうしたって無理が出る。
そこはあらかじめ覚悟していたので、なんであれよく一本にまとめたなあ、というのが正直な第一印象。
作りも決して安っぽくない。
当時の政情やその変化の説明をどうするか、注目した。
朝廷と幕府、また諸藩との力関係、佐幕、攘夷などの解説までふくむとなると、膨大な時間がいるはずで。
国民がそれらの真説とはいわぬまでも少なくとも『通説』くらいは共通認識としていなければ、この説明シーンは省略できない*1。
ま、そこは教育の分野に頼るしかないのでしょうが。
ともかく、それらの背景や政情の説明がセリフ頼みとなっていた。
つまり映画的(つまり視覚的な)表現が少ない。
そこが気になった。
・天然理心流。
原作でも田舎剣術であり喧嘩剣術であって、ルール無用の泥臭い戦い方をするというような解説がある。
ようするに型や流儀にこだわらない現場主義ということ。
そのあたり、決してこぎれいな戦い方をしないというアピールがされているのは好感。
土方のフットワークもそういう観点で考案されているのだろう。
ただし視覚的な派手さは演出としてやはり求めたいらしく、火花の演出も目立つし、アクロバットな動きも多かった。
個人的にはもっともっと泥臭くてかっこ悪い戦いでも良かったのでは、と思う。
・芸人の採用。
お笑い芸人の顔を何人か確認する。
芸人の素材をいかした採用ではあった。
けれど、やはりお笑いとしての彼らやTwitterでのつぶやきを連想しつつ観賞することになってしまったのは残念。
歴史に没入して愉しもうとしているところに、冷や水のようにその連想が遮るのだ。
彼らを知らない世代が十年後に見返すのならば、そういう雑念はないのだろうけれど。
・絵師の女。
ヒロイン。
これは原作にあっただろうか。
記憶にない。
土方のオンナとして登場する。
これも原作の男臭さを回避して映画としての『華』を添えるために作られた感があった。
決して悪くはない。
・悪役。
公家と将軍をネガティヴに描いているが、単純化されすぎていると感じた。
記号化だろう。
・リアリティの基準点。
いわゆる『くそリアリティ』ばかりが正解だとは思わない。
カメラがそこにある以上は純然たるドキュメンタリーなど成立しないように、それもまた不可能なはず。
ただ作品内のリアリティの基準点は、ある程度、統一した方がよい。
たとえば北野武の『座頭市』にタップが出てきても、全体として、それが許容される作りであるから許される。
座頭の金髪も、忍者のバク転登場も、その基準点に沿っている、と頷ける。
この作品の場合、
ドレッドヘアの隊士と酒宴の場で流行っているとされるダンス。
史実として正しいかどうかはわからない。
けれど、気になったし、またあのダンスは繰り返されるわりには映画的な効果はなかったような印象だ。
女優陣のノーメイクや既婚者役の鉄漿(おはぐろ)は良かったと思う。
・岡田准一、好演。
☾★闇生☀☽
・照明。
灯明の位置が気になった。
時代劇での夜のシーンは、光源の在処をどこにするか配慮がいる。
当時の時代そのものを再現するとなれば、行燈の明かりだけでは夜の屋内シーンは暗すぎてとても映画にはならないし。
本編では壁に燭台をかけて蝋燭をともしていたりするのだけれど、火事にならないか気になってしまった。
しかし、日本映画に散見された『明るすぎる屋内』は感じさせなかったとおもう。
・音楽。
それほど悪くはない。
けれど画面になじんでもいない。