壁の言の葉

unlucky hero your key


 ただいま。
 ともかく、無事でしたよ。あたしは。
 

 店は、めちゃめちゃだ。
 エレベーターが止まり、
 店舗のあるビルがよろしくない状態なので、退避。
 壁面に大きなヒビが入っていた。
 揺れのさなかでもレジをこなしていた。
 窓から出ようとするお客様を、
「今は動かないほうがいいです」と笑顔で制したり。
 揺れと揺れの隙間をねらってお客様を非常階段に誘導した。
 けど、
 それでもちゃんとエロDVDを購入していくのだから、なんというか。
 ご自身も自嘲しておられたが。
 ビルから逃げ出た近隣の従業員やお客さんたちが、コインパーキングで建物の揺れを見上げている。
 大型電気店が通常営業を続行していたが、その姿勢はどうなんだ。
 

 退避後、
 片付けのために二度ほど店内に戻ったが、しつこい余震に断念す。
 一晩明かせそうなところを探したが、どこもごった返していて。
 大通りはどこも歩道が人の流れで埋まっている。
 コンビニにはトイレを待つ行列。
 電話ボックスにも人の列。
 わがdocomoのケータイはどこにも通じず。
 けど、都内の群衆はどこかのどかだった。
 みなワイワイと歩きながら会社の上司や同僚と談笑しているほど。
 それと案外と会社で災害用にヘルメットと持ち出し袋を用意しているところが目立っていた。
 

 交差点ごとに警官が交通整理に立っていた。
 ある交差点ではマスクを配布。
 トイレを解放している中学校もあり。
「お水が必要な方いませんか」
 行列にそう声をかけている女性。手にはペットボトルとチョコレート。
 歩道から溢れた人の列が車道に。
 それに憤った自転車の男が恫喝しながら通り過ぎる。
「歩行者は歩道を歩けっ。なんのための歩道だと思ってんだっ」
 四時間ほど歩いたところで、私鉄が動き出しているとの交番からのアナウンス。
 あと四駅だったが疲れと寒風で棒になった足を休めようと改札をくぐる。


 自宅の固定電話から実家の無事を確認。
 茨城は電気が止まったままだという。
 それでもつながる固定電話、ありがたや。
 あたしの部屋は積んであった本が散らばったぐらい。


 さて、
 これから情報を漁る。
 やっと漁れる。
 で風呂に入って、凍えたからだを戻して、それからだ。
 みんな落ち着いていこう。
 ここから。
 民度がためされるぞ。
 


  ☾☀闇生☆☽