壁の言の葉

unlucky hero your key

ネタバレ『箱男』。

いなくていい人/たま





 安部公房の『箱男』は、確かこんな始まり方をする。
 男Aの自宅アパートの窓の下。
 その空地に、あたまからすっぽりと箱をかぶった人が棲みつく。
 Aはその『隣人』が目ざわりで仕方がない。
 なぜかしらその存在に、苛立たされる。
 というのも、常にそいつに見られているような気がするのだ。
 こちらは向こうに見られている。
 なのに、向こうはその表情すら箱の中で、謎だ。
 苛立ちのあまり、ついにAは箱の男を退治してしまう。
 ところが、なぜだろう。
 彼は箱を求め、今度は自らがすっぽりとそれをかぶり、箱男として生活をはじめるのだ。
 正体を隠して世間を、社会を、箱の中から覗きながら。
 妄想され、
 妄想しながら。


 発表が一九七三年だという。
 それから三十五年経った今、
 十年前にたまが出したアルバム『いなくていい人』の「箱の中の人」を聴く。
 するとこの『箱男』を思い出した。
 ここでの匿名性が生む狂気は、現在のネットでの問題を彷彿とさせるなぁ。


 とまあ、
 わたしもまたそんな箱男のひとりに過ぎないんだけどね。




 ☾☀闇生☆☽