壁の言の葉

unlucky hero your key

ICE

宮内和之/ICE




 笑顔がくしゃっ、としてた。
 それはそれは、こちらがついつられてしまうような優しさの。
 気さくで、
 ベシャリが立って、
 おもしろくて、
 リスペクトの対象には、賛辞も敬愛も惜しまない豊かで純粋な感受性をお持ちだったが、そのぶん内実の伴わない権威をかさに着た虚勢に対しては、物怖じなく懐疑を投げかけた。


 あたしが渋谷の片隅のちっぽけなレンタルビデオ店に勤めていた頃、その方は、会員番号が二桁の大常連。
 ブラック・ミュージックに明るい同僚の店員と話があうようで、音楽談義がカウンター越しに華やぐのを、あたしゃいつも隣で拝聴していたものだ。
 たかだかそれだけの、『関係』とも呼べない関係にすぎない。
 なのに、あたしがツェッペリンにかぶれているのをその同僚に聞いたらしく、わざわざリミックス・テープを作ってきてくれたことがあったのだ。
 当時流行っていたグランド・ビートでツェッペリンの名曲群をつないだものだった。
 そのころはまだ髪が短くて、長年事務所に籍をおきながらもメジャーデビューがかなわず、バイトも断続的にだが続けてはいたようで。


 強力なボーカルとチームを得て、まもなくデビューとあいなったが、それが決定した夜は枕を抱いて泣いたそうだ。
 そんなガラでもないからにわかには信じがたいが、その親しくしていたビデオ屋の同僚が、後日おしえてくれたことである。
 実力とクォリティの高さは早くから折り紙つきなのに、そういう存在に限って後回しにされる世界なのだろうか。
 あられもなく、遅咲きであった。


 しかし、かえってその溜め込みが効いたのだろう。
 デビューアルバムの爆発力は凄まじい。
 クールを装ってはいたが、制御がきかないほどの熱気が、賢しらなトリートメントを拒んでいるかのようで。
 その粗さも、熱気とともに2ndでは洗練されて、炎は青く静かに研ぎ澄まされていった。
 3rdでは、はやくもそこに貫禄が生まれて、名曲「Kozmic Blue」を生み出す。


 出すたびに最高傑作。


 それは使い古された宣伝文句であるだけに、このバンドに限っては、そうとしか言えないもどかしさがどうしてもある。
 が、悔しいかなそうなのだ。
 それ以降、炎は青く静かに研ぎ澄まされていくばかりなのである。
 スキャンダラスでキャッチーなアピールで安易に挑発することもない。
 大味ではないだけに、いやみな商売ッけもない。
 つまり本物を追及していったのだ。
 だからこそのミュージシャンズ・ミュージシャン。
 それは聴けばわかる。


 バンドの名は『ICE』。
 男の名は宮内和之
 コンポーザーであり、
 プロデューサーであり、
 なおかつ気分をサイコーにしてくれるギタリスト。
 18日、耳下腺がんのため死去。
 43歳だった。
 

「ニュースで知った事だけど
 あのロックンロールスターは
 もういない

 車のシートに横になり
 涙を流した
 夢は消え歌は残る

 PEOPLE,RIDE ON
 PEOPLE,RIDE ON
 THINK YOURSELF

 ニュースは今も変わらない
 メディアが増えても変わらない

 僕らは全てを委ねられ
 答えを出せない
 それこそが生きる理由

 PEOPLE,RIDE ON
 PEOPLE,RIDE ON
 THAT’S THE WAY OF LIFE」

 宮内和之 『PEOPLE,RIDE ON』より


 Kozmic Blueは確かにいい。
 名曲だ。
 けれど、今夜は大好きな『MIDNIGHT SKYWAY』を聴いています。
 宮内さん、マジ、かっこよかったっす。
 国岡さん、歌い続けてください。これからも。


 合掌。




 想いはつながる、広がる。
 http://blogs.yahoo.co.jp/nihongayarou/28924650.html
 http://d.hatena.ne.jp/yomi_at_osaka/20071224




 ☾☀闇生☆☽