壁の言の葉

unlucky hero your key

アタマ。

 結局「メンツが薄いから」という理由であった。
 それで別現場に配置されていたあたしを前夜になってぽいと変更したらしいのであーる。
 メールいっぽんで。
 担当営業が不安になってそうしたような感触があった。
 それはそれで彼の責任感からなのであろう。
 自分で契約にこぎつけた現場を大切に考えてのことなのであろう。


 
 れ
 ど、

 腑に落ちない。


 大切に考えているのならば、事前に打ち合わせなりを密にすべきではないのか?
 メールいっぽんだ。
 先方の名前と現場名、住所、時間がしるされてあるだけ。


 ましてや初めての現場である。
 アタマは、つまりが仕切りは誰なのかと会社に問えば口を濁す。
 参加予定のベテランの名前を幾人か列挙して、みんなで好きにやってくださいなどとのたまう。
 そういう問題ではないのである。責任者というのは。リーダーというのは。
 ベテランを揃えておけばよいというものではない。
 ベテランのすべてが『できる』奴なわけではないし。
 またできるベテランであっても自身の担当現場でないかぎりは、余計な口出しはすまいと自らを慎むもので。
 慎むべきで。
 悪く言えば力を出し惜しむのであーる。


 先方で現場代理人に「誰がアタマ?」などと問われ、いい歳ぶっこいたおっさん連中がそろろいもそろってお互いの顔を見合わせて戸惑っている。
 先方から見れば「どいつもこいつもまったく」といった塩梅だ。ばかっ面にしか見えないだろう。
 そういうふうだからこの業界は舐められる。
 底辺だと軽蔑される。
 所詮は人足(にんそく)。能力差に関係なく人数で発注・受注され、適当にみつくろって送り出される商売にすぎない。


 重要とされているのは頭数(あたまかず)なのだ。


 採用にあたっては試験があるわけでもない。
 社会のあぶれものが、それも不良にすらなれなかった消極的怠惰にかまけてきた連中ばかりが集まってくる。
 協調性のないの、
 やる気のないの、
 適応力がないの、
 所詮は本業のあいまにしているアルバイトにすぎないと高をくくっているの、
 転職先が決まるまでの腰かけ気分でいるの、
 芸人だか、俳優だか、ミュージシャンだかを目指していてそれゆえテキトーなのと。
 そのくせ実際の現場ではそれぞれに最低限度の能力をもとめられるし、第三者への対応力や社会常識を問われるのだ。
 

 カネもらってんだぞ、おれたちは。

 
 ベテランも新人も男も女も老いも若いも原則的には同じ単価だ。
 ぼけっと突っ立っているだけの奴も、それを汗かいてフォローした奴も同じ。
 できない奴を難易度の低いポジションに押し込んで、一部の奴が汗をかく。
 んなことは「立っているだけ」の奴にはわからない。
 分かっても、動かない。
 分かるからこそ動かない。
 積極的に自発的に取り組んで戦力になろうと励む奴も同じ単価。
 そのギャップを職長がひとりで背負いこむのである。




 あほくさ。


 

 それでお人よしよろしく自分が名乗り出て心にも体にも汗かいて奮闘すれば、ほらうまくおさまったと会社は次なるアタマ役を押し付けてくる。
 お人よしのベテランひとりに寄せ集めを押し付けた編成でメールいっぽん。穴が埋まれば定時を待つだけ。
 あとは知らない知らない。


 不快だ。


 「だってほかにいないんですよー」
 「だって人がいないんですよー」


 頭のいい奴はそういう仕事は断っている。
 会社に陰口をたたかれようが、
 仲間に嫌われようが、
 かまわない。
 あの図太さにあこがれる。