壁の言の葉

unlucky hero your key

愛だろ、愛。



 いまは退職して転職もしたが、この娘、もとは母と一緒に夜勤に出ていた。
 母は娘と同じ現場でないと厭だと会社にごねて、
 そして娘もまたそれを嬉々として受けいれていた。


 母も娘も現場では戦力にならない。
 なので皆は二人を『おやこセット』と指をさす。
 母はベテランなので威張るのだ。
 できないのに威張る。 
 そして絶対に仲間を助けない。
 気くばりがない。
 ベテランであるのに楽なポジションを選ぶ。
 ひとりだけ残る必要のある現場でも、誰よりも先に上がる。
 娘を連れて。
 

 今でも娘は母親の夜勤についてくる。
 コインパーキングにとめた車のなかで母の帰りを朝まで待っている。
 スマホの明かりにてらされた顔が、ぼうっと車内にある。


 ミュージシャンでもある同僚のコンサートを母娘で観に行ったりするらしいので、プライベートでもべったりなのだろう。


 親と仲がいいのはいいことだ。
 しかしそのオフ日の装いを見た同僚は、服は母親に選んでもらっているのではないかというくらい『昭和』だったという。


 ということから、デートも母親同伴なのではと勘繰ってしまうのだな。


 親離れ、子離れせえよ。と他人事ながらに思う。
 とりわけ、娘の人生は母のそれよりも先が残されているのである。
 余計なお世話だろうが、自由を満喫させてやれよと思うのだ。
 甘やかさずに追い出せと。
 それが愛だろと。
 自分がこの世を去ったあと、このままだと娘は相当な苦労をするぞと。



 ☾☀闇生☆☽