壁の言の葉

unlucky hero your key

たるほ。





 小学生の時だ。
 郷里には本屋がたった二軒しかなかった。
 一方がアルバイトを雇って文房具やレコードまで陳列していたこざっぱりとした店で、その店は子どもたちの立ち読みを放置していたので人気があった。
 そしてもう一方が家族経営で、しんとしていて、立ち読みにいつも目を光らせているいや~な雰囲気の店。
 店員も無愛想だ。
 ただし家から近いのはこの後者の店で。
 あるときなんの気なしに入店して、なんとなく手に取った一冊がこれだった。


 当時とはカバーのイラストが変わっている。
 棚の一番下で埃をかぶっていたそれを選んだのは、きっとタイトルに惹かれたのに違いない。
 しかしそのときには購入せず、ぱらぱらとめくっただけだったはずだ。
 小さくて不思議なエピソードが宝石箱にぎっしりと詰まったアクセサリーのように思えた。
 後日、忘れられずついに購入。
 表題作のほかにも作品は収録されてあったはずだけれど、それしか読まなかった。
 繰り返し繰り返し足穂の世界に浸った。
 いつしかこんな素敵な作品を書きたいと企みつつ思春期に突入していくことになるのである。
 


 ☾☀闇生☆☽