エミール・クストリッツァ監督作『アリゾナドリーム』DVDにて
ニューヨークで漁師として働く若者が、故郷アリゾナで過ごす奇妙で激しい数日間を描く。
両親は彼が幼いころに事故で他界しており、
その事故を自身の過失であると引きずりつづける叔父に育てられた。
叔父は自動車販売業を営んでいて、時代遅れのキャデラックのセールスで古き良きアメリカンドリームの実現を夢みている。
彼は甥が都会の享楽のなかで人生を浪費していくことに我慢がならない。
親代わりとしての責任感から、自分の店を継がせたい。
かくして試験期間の店員としての日々を過ごす羽目になる主人公。
そこへ客として現われる奇妙な母娘。
互いにいがみ合い、罵りあって、干渉し合うが荒野の一軒家で同居をしている。
主人公はこの母といつしか恋に落ち。
ふたり、手製のモーターグライダーで空を飛ぶことに挑戦し続けることに。
娘はそれを使い捨ての恋であると、執拗に妨害してくる始末。
母娘の性格はともに激烈で、もろい。
有体に言えばヒステリックで、強度の自己中で、つまりがクレイジーだ。
本来は共存できるはずのないこんなふたりが、若き主人公を挟んで共同生活を続ける。
そんな二人に翻弄されつつも、彼は夢に見たエスキモーの魚のイメージにこだわり続けるという。
不思議で、激しい、恋と狂気の数日間をユーモラスに描く。
天才クストリッツァがアメリカで映画を撮ったらこうなりました、という一作。
キャスティングが素晴らしい。
ジョニー・デップ。
ジェリー・ルイス。
フェイ・ダナウェイ。
リリ・テイラー。
ヴィンセント・ギャロ。
なかでもフェイ・ダナウェイが好演。
素晴らしい。
中年女性が、中年女性として躍動しているのである。
自由で激しい女の役は得意中の得意なのだろうけれど、親子ほどの歳の差の恋としてそれを存分に表現している凄味。
売り出し中の若造デップを相手に、大女優として胸を貸すのではなく、惜しげもなく対等な恋をしてみせている。
リリ・テイラーも光ってる。
こういう美女なのか、ブスなのか、小悪魔なのか、カルトなのか、なんなのかわからない魅力を持っている人こそ、映画界は大切にすべきで。
三人の関係のコントラストに大貢献。
それとギャロ。
すいません。
前情報無しで観ていたので、これがまさかギャロだとは思いませんでした。あたくし。
受け口で青く澄んだ瞳、シャープな眼差し。これ誰だっけ、とずっと考えた挙句にエンドクレジットでやっと判明するという体たらく。
惹かれます。
ここでの役柄は三の線。
主人公の遊び仲間として、この奇妙な同居状態に割りこんでくるピエロ。
売れない役者で、数々の名画の台詞を暗記しているという。
そこに監督の米国への憧憬が現われてもいた。
全体にロードムービーのよう。
行き当たりばったりで脚本を変更していった気配があって。
なので娯楽作として考えると、無駄な贅肉や、足りない筋肉があちこちに見受けられて。
なおかつボディバランスもいびつ。
要は『退屈を描く』のが目的なのである。この手のは。
言わずもがな、映画としての退屈とはイコールではない。
初期の北野武作品に多く見られた沖縄での数日間のような感じね。
人生は暇つぶしなのである。
けれど今作では監督がそれを自覚できていないのではないだろうか。
クストリッツァが母国で撮るいつものハチャメチャさも控えめだった。
☾☀闇生☆☽