ポール・トーマス・アンダーソン脚本・監督作『ハード・エイト』DVDにて。
これがこの監督の長編第一作ということである。
出世作『ブギー・ナイツ』はこの二作目とのこと。
しかし若手の新人監督にして、オリジナル脚本で、なおかつ画面のこの落ち着いた風情はなんだろう。
キャスティングもまあ渋いんだ。
のちに同監督作の常連となる初老の名脇役フィリップ・ベイカー・ホールがここでは主演に抜擢され、同じく常連組となるジョン・C・ライリー、サミュエル・ジャクソン、グウィネス・パルトロウがわきを固める。
おもな登場人物はこの四人。
カメオ出演で、のちにやはり同監督の常連組となるフィリップ・シーモア・ホフマンが盛り上げるが、基本はこの四人。
舞台はカジノ。
ギャンブルに大負けしてすっからかんとなったジョン(J・C・ライリー)。
為すすべもなくコーヒーショップの店頭に座り込む彼の前に、見知らぬ初老のギャンブラーがあらわれる。
シド(F・ベイカー・ホール)と名乗るその男は初対面のジョンにコーヒーとタバコをおごった挙句、カネまでくれるという。
見返りは無し。
ただし教えるとおりに使え、とカネを増やす方法を指南していくシド。
あれわあれよと元手は増え、ジョンは羽振りがよくなっていくが、どうしてシドがそこまで自分に親切にしてくれるのかわからない。
やがてジョンはカジノのウェイトレス、クレメンタイン(G・パルトロウ)と恋に落ちる。
クレメンタインはその支配人の命で、カジノの客を相手に売春をしていた。
それを知ったシドは、彼女を売春から足を洗わせるべく親切にするが……。
シドはジョンの悪友ジミー(S・ジャクソン)に自身の過去をかぎつけられて強請られるはめに……。
お話の構造は非常にシンプル。
そして、ともすれば感動巨編にしたてあげることのできるタネも含まれているにもかかわらず、そこをサラリとかわして観客の想像にゆだねた潔さが光っていた。
つまり、長編にもできるネタなのに、あえて中短編にしたてた感じ。
お涙頂戴になりうるところを割愛して、あくまでドライにしたのは、主演シドのもつハードボイルドな空気を維持したかったからだと思う。
そして、その安易なお涙や暴力に距離を置く姿勢は、このデビュー作からしてこの監督の作風になっていたのだなあと感心。
それでいてメジャーでいつづけるというのは、相当な力量ではないのか。
G・パルトロウ。
彼女。思えば本編で一度も脱いでいない。
カラミもない。
にもかかわらず、だれとでもついやっちゃうような頭のよろしくない売春婦になっていた。
にしても思うのだ。
新人監督に、そのオリジナル脚本をゆだねる映画界のふところのでかさ。
むろん売り込みとして、パイロット版なりの存在があったかとは思うのだが。
しかもこの渋いキャスティングよ?
主役がフィリップ・ベイカー・ホールよ?
おっさん、てかもうおじいさんよ。
パロトロウもべつに美人な役でもないのよ?
比べちゃいかんのだが、漫画原作の実写化とかばっかのどっか映画界とはまるで違うなあ。
それと、それほどの大金をかけなくても映像化できそうな脚本をこしらえるのも、うまいね。
『CUBE』の第一作めとか。
『SAW』の同じく一作目に先駆けて作られたパイロット版とか。
こういうの見ると頭の良さを感じてしまう。
みんな工夫してるわ。
シンプルで、濃密で、充実の一作。
おすすめ。
☾☀闇生★☽