スチュワート・サミュエルズ監督作『ミッドナイト・ムービー』DVDにて
低予算でアヴァンギャルドなカルト映画ムーブメントの土壌となったのは、70年代アメリカの深夜映画館である。
人呼んで『ミッドナイト・ムービー』。
その熱き現象を巻き起こしたカルト・ムービーの代表作の紹介、および制作、公開時のエピソードをスタッフのインタビューを交えてつづったドキュメンタリー。
紹介されるのは以下の6本。
アレハンドロ・ホドロフスキー監督作『エル・トポ』
ジョン・ウォーターズ監督作『ピンク・フラミンゴ』
ペリー・ヘンゼル監督作『ハーダー・ゼイ・カム』
リチャード・アブライエン監督作『ロッキー・ホラー・ショー』
デヴィッド・リンチ監督作『イレイザー・ヘッド』
俗にアングラと呼ばれる文化現象があって。
それは日常社会から誰もが感じているある種の抑圧から解放させてくれるような、そんな効果をもち。
言い換えれば観客が自らを臆面もなくマイノリティ側におき、その小さい輪のなかにおいて同胞意識や連帯感を共有することでストレスを発散できる場であるわけで。
この現象はときに熱を帯びる。
いわば、おしくらまんじゅうだ。
ために現象がメジャー(マジョリティ)になるやいなや、役割を終えてしまうと。
きっとこんな風であっただろう、とあたしゃ発祥時の歌舞伎小屋のいかがわしさと熱気を想像した。
それはそうと、
『ハーダー・ゼイ・カム』のあとにボブ・マーリーでレゲエ・ブームなのね。
勉強になりました。
『ロッキー・ホラー・ショー』
コスプレをして映画館に駆けつけるファンや、スクリーンに掛け声をかけるなんて現象が、興味深い。
昔、『ダイ・ハード2』の公開初日の先行オールナイトを新宿に観に行ったことがある。
いまでこそ、メジャー映画だし、主演のブルース・ウィリスは世界的スターだが、1作目のときはまだ日本ではあまり知られていない俳優だった。
米国では『こちらブルームーン探偵社』というテレビドラマに主演していたので、顔はそこそこ売れてはいたのだろうけれど。
あの当時のメジャー映画というのは、主演俳優の名がタイトルの前に掲げられているのがあたりまえであり。
ハリソン・フォード最新作! とか。
シュワルツネッガーinなんたら、とか。
初公開時の『ダイ・ハード』の興収がどんなものだったのか、闇生は知らない。
あの作品はビデオ化されて、レンタルビデオ屋の隆盛に乗っかった形でじわりじわりとヒットし、遅れて映画館で再上映となり、その後1年近く劇場公開していたと思う。
というのも、当時自分はレンタルビデオ屋につとめていたのであーる。
常連さんに「なんか面白いのある?」と訊かれてこれを勧めると怪訝な顔をされたものだ。
パッケージに有名俳優の名が無いのだから。
情報のない映画に手を出すとき、ひとは俳優の知名度を保険とするもので。
ましてや監督もあまり知られていなかった。
ところが騙されたと思って借りた会員さんのほとんどが、
「おもしろかった! こういう映画ほかにないの?」
となったのね。
こまったもんだったな。
余談だが、
似たような経緯は『ショーシャンクの空に』でもあったっけ。
あれはアスミックがビデオ発売前に、大胆にも全編サンプルをビデオ屋に無料配布したのね。
(アスミックはあの当時そういう営業戦略を組み、マイナーでも質の高い映画を発掘しては発信していたのね。『八日目』『未来は今』『スリング・ブレイド』などなど)
自信があったのでしょう。
いまでこそ好きな映画の名前にこれをあげると、あまりにベタすぎて引かれる恐れのある映画になってしまったのだが、役者の知名度だのみの時代にティム・ロビンスだよ?
しかも主演。
渋すぎでしょ。
けど、このサンプルを観た全国のビデオ屋の発注担当の映画好きが、太鼓判をおしたのね。
パッケージにはおすすめシールを貼っただろうし、手書きの熱のこもった推奨コメントなんかも付けたに違いないと。
話を戻す。ダイ・ハード2に。
そんなこんなで、じわりじわりと口コミで広がっていった1作目の評判。
待望の続編が公開となって、ファンが先行オールナイトにおしかけた。
ライヴ・ハウスのような熱気だったね。
タイトルがでかでかとスクリーンに出るや歓声があがったし、マクレーンが飛行機の脱出シートで爆発から逃れるときは喝采と爆笑がおこった。
終演も拍手拍手。
明転すると、床にはポップコーンやジュースのゴミが散乱していた。
なので、
ダイ・ハード2はあたしにとって忘れられない記憶なのだ。
んが、あとになって一人でビデオで見返すと、大したものでもない。
というか、これをおもしろい映画として人に話すことは、憚れる。
あの状況ありきなのだね、とつくづく。
ついでに、
北野武映画の初期、イタリアには北野映画の熱狂的ファンがいたことが有名だが。
彼らが本編中の登場人物の所作を真似て遊ぶ、ということがテレビで紹介されていたことがあったね。
本国では鳴かず飛ばずで、一部の映画ファンにしか受けていなかったころである。
「夢を見るな。夢になれ」
とは『ロッキー・ホラー・ショー』のセリフだが。
観て、その世界の住人になりたいと感じさせる。
そんな映画は、強いねえ。
この6本の中では個人的に、
『エルトポ』と『イレイザー・ヘッド』に衝撃をうけた。
後者はとくに高校生の多感な時期であり。
近所のビデオ屋で借りて観て、呆然として。
何も理解できていないのに、また観かえして。
観かえして。
観かえして。
その日の午後をまるまる『イレイザー・ヘッド』で潰した記憶がある。
働きながらの自主制作で4年もかけたというから、単なる思い付きと勢いだけで作った映画ではない。
衝動的な『あっと驚かせたい』だけでは、あの空気感とテンションと不可思議を4年間も持続させることはできない。
まさに狂気である。
追記。
ビデオやネットの登場で、ミッドナイト・ムービーという文化的役割は終わった。
ビデオ屋もまた、地域密着店などはとくに情報交換の場の役割を果たしていたのだが、それも終わっている。
インディペンデントなものというのは、市井に埋もれた人たちの触れ合いの摩擦から生じてくると思うのだが。
今後はどーゆーところから、どーゆーカルト文化が出てくるものやら。
☾☀闇生★☽