壁の言の葉

unlucky hero your key

『モーターサイクル・ダイヤリーズ』感想。

モーターサイクル・ダイヤリーズ
 ウォルター・サレス監督作。
 ガエル・ガルシア・ベルナル主演。
『モーターサイクル・ダイヤリーズ』DVDにて。




 のちに有名な革命戦士となる一人の男。
 チェ・ゲバラ
 若き日の彼には三十歳までに夢をかなえるという目標があった。
 南米大陸の縦断旅行である。
 ある日、彼はその夢をかなえるべく友人とふたりきり、ついに旅に出る。
 頼みは一台のおんぼろバイクのみ。
 そいつを代わる代わる運転してマチュピチュを、
 アマゾンを、
 雪のアンデスを、
 道なき砂漠を旅してゆく。
 その行く先々で出会うあたたかな人々。
 その貧しくも健気に生きる人々との交流の中で、彼は少しずつ疑問を抱きはじめるのだった。
 貧困について。
 病気について。
 差別について。
 民族と国境について。
 それから国家の理不尽について。
 ただしこの映画が描くのは、革命前夜である。
 行動の発端となった蒼き疑問や、拙き反発がさらりと描かれているのにすぎない。
 スタンスは青春映画なのである。あくまで。
 その思想や主義主張が熟成されて行動となるのは、この少しあとのことだ。
 重要なのは、若気の至りよろしく飛びだした無鉄砲な旅がきっかけで、世界観ががらりと変わったという。
 そこね。
 歌とダンスと淡い恋とにはしゃぐ平凡な若さをもちながら、
 一方では貧困をみつめる静かなまなざしが同居している。
 だからこそ人生観を変えるほどに心をゆさぶられた。
 彼の持つ強靭なやさしさの根源は、そこなのでしょう。


 イデオロギーやら、キューバ革命がどうしたこうしたよりもまず、青春映画として楽しむべきだと思う。
 実際、良質な青春ロードムービーなのですよ、これは。
 事実、ゲバラ云々を知らんで見始めのだし。あたしはね。
 あ。あのゲバラとおんなじ名前だ。きっとあっちでは珍しくない名前なんだろうな、なんて感じで観始めた。
 それに実話でもありますしね。


 昔から、かわいい子には旅をさせろといふ。
 んが、
 旅がその子の人生に作用するには、受信装置の精度にかかわってくると思った。
 感受性ね。
 想像力ね。
 それらやさしさの出発点ね。
 けどこれらを長く持ち続けるのはヒジョーにしんどいのね。
 ある意味、悲劇でしょう。
 だから社会にすれるということは、これらを鈍化させることに始まるのだろうと思う。
 なんせ楽チンなのよ。
 俺は俺。他人は他人だと。
 ほっとけほっとけ、知らぬがほっとけと。
 といって、純情まっすぐ君のままでは、それはそれで盲目だしね。
 そう。
 世が泰平ならいざ知らず、革命が必要な事態に生きたのだ。彼は。
 お先真っ暗な。
 ならば盲進、大いに結構だろう。
 時代の壁は、理屈だけでは壊せやしない。
 信念と、
 衝き動かされたような盲進があってはじめて、突き崩せるのに違いない。
 






 と、知ったかぶっておく。
 きっと旅に出たくなるよ。
 

 
 おすすめ。



 ☾☀闇生☆☽