その名も、
「MUSIC FOR THE BEAUTIFUL DAYS 1993/2007」
ICEの十五周年記念ベストアルバムのタイトルだ。
発売が九月。
ついでオリジナル最新作「SPEAK LOW」が十月。
そして九十年代の傑作群が紙パッケージで再発されたのはつい先日のことで。
宮内さんが亡くなられたのはその前日のことだった。
不肖闇生。
実のところあまりベスト盤というものを、買うことがない。
理由はふたつ。
ほとんどの曲をすでにもっているからという場合と、どうせならもっと深く知ろうとオリジナル・アルバムを買ってしまう場合とに分かれる。
たぶんそういう人は少なくないと思う。
ICEの場合は、前者の理由で買いそびれていた。
んが、
このたびは買って大正解だったと、そう断言してしまおう。
あえて選曲を他者にあずけたという宮内さんの度量がマニア度を下げ、そのぶん極上のポジティヴ・ロックがずらり、顔をそろえることになっているのだ。
ファンそれぞれに、それぞれのICEがあるだろうから、
「あのカッティングに腰が動いちゃうの」
とか、
「あそこのギターソロに唸るっつの」
とか、
「あの歌詞だっつの」
「声だっつの」
など、つのつのと想いもつのるのだろうが、それは各アルバムの中で味わっていけばいいわけで。
もとより、曲から曲へのつながりを考えて作曲しているという発言もあるくらいなのだから、オリジナル・アルバムでしか確かめられないそのセンスの妙は、ここであらためて触れるまでもない。
などと能書きを垂れたが、とにもかくにもまず通して、曲順どおりに聴いてほしい。
あたしゃ思わずうめいたんだ。
「なんなんだ、この気持ちよさは」
と。
どれもこれもが気持ちよすぎて、せつなくなる。
まず、
おそらくは十数年ぶりに聴いた『FUTURE』にぶっとんだ。
ぶっとばされた。
ここまで惜しげもなくポップを押し出しつつ、しっかりとロックを感じさせる疾走感。
この、さんざん聴き倒したはずのファースト・シングル曲が「今年デビューしたのか?」ってぐらいの鮮烈さで突き刺さってくんだから。
あるだろうか。
現在の新人で、
ここまでのパワーと、
クオリティーと、
新鮮さをひっさげて登場してくる連中が。
ちなみに又聞きだが、当初このシングルは某氏がプロデュースする予定だった。
いや、ミックスだろうか。
新人ICEを売り出すために某氏の知名度を活かす戦略だったのかもしれない。
けれど、宮内さんはそのデキに不満で、某氏がいないスキに自分たちでこっそりとやりなおしたという。
…。
曲を追って解説していたらきりがない。
今日は『spirit』に見た青空に、感謝。
思えば、曲によって要らないとみればあっさりとギターをカットした。
音楽への献身。
その姿勢を音楽そのものへの殉教、といえば大げさだろうか。
自己主張よりも、音楽を愛することを大切にしていた。
あえて言うならば、それが主張だったのかもしれない。
まあ、
聴いてみてください。
そして、
MUSIC FOR THE BEAUTIFUL DAYS
そうとしか言いあらわすことのできない珠玉の楽曲群と、彼らチームの足跡を。
このタイトルをかみしめるべし。
そして、2004年のSHIBUYA-AXでのライヴ映像を堪能して、宮内さんのMCの意味を胸に刻もう。
ついでに、
プロモーション映像がいくつかついている。
秀逸なのがこれ。
『GET ON THE FLOOR』
この曲のクリップが全編見られたのが嬉しかった。
青い闇のなかで演奏するICE BANDのシルエット。
それが儚く、美しくて。
どうか部屋のあかりを落として、ボリュームを上げて観てほしい。
画面は暗く妖しげで、
国岡さんのお顔がかろうじてわかるくらい。
あとのメンバーはほとんど影のようである。
だから、プロモーションビデオとしてはどうなのか、という声も確かにあるだろう。
けれど、ねらいは一目瞭然。
コンセプトは古き良き生バンド付きのダンス・ホールなのだ。
もしくはダンパ。
ダンパとは、かつて流行ったダンス・パーティーの略である。
こんなエピソードがある。
ディスコ・ブームのころだろう。
宮内さんはよく自宅で友人たちとディスコごっこをしたのだそうだ。
むろん曲をかけて踊るわけだが、そこは貪欲に工夫した。
ミラーボールやスポットライトのイメージで、蛍光灯のスイッチをパチパチと入れたり切ったり。
そのパチパチ係をきめて、交代でつとめたり。
パチパチの腕前を批評したりして。
「○○君のが一番うまいねえ」
なんて。
音楽の愉しみ。
それは踊る愉しみでもあるわけで。
カラダに音を直結させる悦びである。
そんなイケナイ愉悦を知ってしまったおませさんだ。
ならば、アレがしたくなるのも当然である。
アレって何だ?
悦びのおすそわけだ。
とどのつまりが、
「踊らせたい」
そう願うミュージシャンに、なるべくしてなったというわけ。
ダンパでは、バンドは客を躍らせてなんぼである。
躍らせられないバンドは用なしだ。
そして、たとえ腕のいいバンドでも、彼らにスポットライトはあたらない。
なぜならバンドは主役ではないからだ。
主役はいまそこで聴いている、あなた自身なのである。
GET ON THE FLOOR,DARLIN’,DARLIN’
GET ON THE FLOOR AND DANCE
GET ON THE FLOOR,DARLIN’
TURN ON YOUR LIGHT
そうICEにうながされて、踊らずいられますかっての。
そんな供養だって、あるよね。
ともあれ、
果たしてこんな表現が通じるか知らないが、
すべての『FM世代』に。
☾☀闇生☆☽