戦闘。


 夜半、
 自宅にてゴキブリさんに遭遇。
 開けたままの台所の窓のそばにいらしたので、おそらくは新規入場者なのであろう。
 しかし、そんな話は聞いていない。
 仮に聞いていたとしても、議論の余地なし。ノー・サンキュー。
 ただちにゴキジェットにて迎撃した次第。
 いやなに、別になにも攻撃されてはいないのだがね、
 不意の侵略者にはちがいないわけであるからして、防衛意識が過剰に発動しちゃったのだわ。
 

 ただちに部屋の隅々をまわってコンバットの配備状況を巡察す。
 あにはからんや、期限が過ぎているではないか。
 明けて、ドラッグストアへいそいそと、コンバットを買ひに。
 エロDVD屋時代、その店舗がゴキブリの巣のごとき活況、もとえ状況、もしくは惨状を呈していると知ったのは入社翌日のことであった。
 来客者のことごとくをムーンウォーカーにかえてしまうほどオイリーな床をほこった場末の中華屋。そいつが上階にあったせいにちがいない。
 先輩たちはもはや諦観した風情で、黒い影をみかけるたびに「おっ」だの「わ」だの「ぽー」だのと声をあげはするもののそこにソウルは微塵も込められていなかった。
 有体に言って、麻痺していたのだと思う。
 なぜ退治しないのかとオーナーに問えば、
「ま、人それぞれだからね」
 とにべもなく。つづく、
「好き好きだから」
 においては、返す言葉も無く。
 今にして思えば、あたしが相対化地獄というものを過剰に警戒するに至るその切っ掛けだったのでは、と思っている。
 ディズニーランドの隠しミッキーなら、不意に出くわしたとしても幸福な驚きに浸れることだろう。
 んが、ゴキだ。
 ブリったゴキだ。
 それでも、人それぞれかね。好き好きかね。
 エロエロモードで訪れるお客が、棚の陰にそいつをみっけて、はたして「ラッキー♪」となるかね。
 自撮り棒でツーショットきめるかね。
 あたしにしてみれば勤務先でもあるのだし。
 休憩中も着替え中も、びくびくしちゃって落ちつかないったらなかった。
 いい歳こいたおっさんが、物音がするたびに、びっくんびっくんしていたのである。
 
 
 そいつを撃退したのは誰あろうあたしであーる。
 足の踏み場もないほどとっちらかったバックヤードをかたずけて、不要なものを親のかたきとばかりに処分しまくった。
 おかたづけは、やつらが潜みたがる死角を減らす効果があるのだ。
 商品なのか、はたまた店員の趣味で集めたものなのか判然としないままに積み上げられていたエロ漫画を、それも店のカラーにはまったく合わないむちむち熟女もんを特価中古としてさばいたったのだ。
 それまでは飲み散らしたまま放りこんであったゴミ箱のなかのジュースの空き缶やペットボトルも、毎日引っ張り出してはゆすいで分別しなおした。
 社内では、すっかり孤立してしまった。
 そりゃあするだろう。新参者がやっているのだ。単なる嫌な奴ではないか。
 んで、
 コンバットである。
 結局のところは、コンバットなのであーる。
 要は侵略者だけを現行犯としてその都度ぷちぷち処罰していくのではなく、とっぷりと洗脳させ、感染させて、あえて泳がせて帰還してもらい、その拠点もろとも壊滅させる自爆テロリストとして利用することで、予測される未来の侵略をふせごうという、そーゆー魂胆だ。


 で、


 めでたく黒い影を見かけることはなくなり、足の踏み場もなかったバックヤードにはテーブルと椅子を置いて、くつろぐことのどきるスペースが生まれたのだが、そうなると誰もかつての惨状のことなど忘れてしまうもの。
 昔からこうだったと思い込む。
 平和はタダで手に入り、維持できていると思い込む。
 なるほど根本的に人はケチである。
 労力も時間もカネも使わずに、安寧だけを欲しがる。
 タダであたりまえ、と思う。








 コンバットを買ひに行った。


















 タダじゃなかった。






 ☾☀闇生☆☽