とある現場。
通行止めにしたはずが、一般の車両が入ってくる。
然るべき地点には、通行止め状況を広報し、う回路を案内する誘導員を配置しているのだが……。
ともかくもドライバーにわびた。
広報の誘導員がどう接したのかを尋ねると「何も言ってくれなかった」とのこと。
丁重におわびしてUターンしていただいた。
ただちに通行止めポジションの誘導員に事情を問いただすと「いう事を聞いてくれない変なのもいる」「わかってくれ」とふてくされるではないか。
たしかにお願いをきいてくれず強引に侵入しようとする人はどこの現場でもいる。
それくらいはわかっている。
何度も経験している。
どうしても通るというのを遮る権限も、我々にはないのだし。
問題は、侵入をゼロにはできないまでも、それをいかに減らし、穏便に迂回のご協力をいただくかだ。
そこに誘導員としての技量が求められるわけで。
にしてもこの日はあまりに侵入が多かった。
稀に、相手に不機嫌な顔をされるのを恐れてコンタクトから逃げようとする誘導員がいる。
んで、言い訳する。
無理に止めるとクレームになるとかなんとか。
現場へのクレームを恐れてのことではなく、おそらくはそれ、保身だろ?
怖かったんだろ?
でもそれで、なんの解決になるのだろう。
少なくともコンタクトしようよ。相手と。人として。声位かけよう。聞こえるように。スルーしてどうすんのよ。
相手にとっては呼び止めもされず侵入してしまって結局『引き返される』無駄の方が、腹立たしくはないのか。
その場しのぎのスルーをしたとて結局はその引き返しざまに「ったく」と悪態をくらうのだ。
工事に苛立つ人々のその手の悪態に心を逆なでされてしまうのはわかる。
へこむよねえ。
時には腹立つよねえ。
激しく同情するし。
同情してほしいし。
んが、その誘導の技術を指摘する仲間に怒ってなんになるのか。
ましてや、それで職務を放棄するというのはいかがなものか。
彼はただちに誘導の問題から論点をすりかえ、逆ぎれした。
たかだか半年の経験しかなく、親と子ほど離れた年齢差であるのに、突然と指導教官のようなのたまいをしてきた。
なんだこれ。
なんなんだこれは。
コントか?
ふん。
相手が感情に逃げたのならば、話し合いは成立しないと判断。
てか、クレイジーだ。
「はい。これダメー」
と半年の新人が現場のいたるところに駄目だしして回るのである。
主観だのみの正義をかさにきて、論点をエンドレスにスライドし続けるクレーマーと同じではないか。
しかも警備員が警備員を敵とみなす行為。
ただちにご機嫌をなだめ、一切反論せずに彼のポジションをかえた。
そのポジションを他の隊員に変えたとたんに侵入者が激減。
……したことに、ヤツは気づいたのだろうか。
気づけないだろうなあ。
そこに気付けるような客観性があれば、そもそも逆ギレしないし。
現場のあらさがしをするばかりで実際には行動しない『俺様』風情になんか落ちぶれたりしない。
てか、恥ずかしくてそんな小芝居できっこない。
しかしまあ、
口下手で第三者対応が苦手だとみなしていたた代打隊員が、ポジション変えのあとでこうも活躍するとは。
下手くそでも一生懸命説明しようとする態度が、伝わったのだろう。
真摯な対応ひとつで、こうも効果が違うのだな。
終了後、
「お疲れさまでした。ありがとうございました」と差別なく、全員に挨拶。
むろん、ヤツにもこうべをたれる。
後輩が憤懣やるかたないといった風で殴り掛からんばかりであったが、なだめた。
おこってやるほどあたしゃやさしくないよ。まじで。
人はみな個人商店。人生は客商売。
苦情やクレームは考え方ひとつで商売のヒントにもなるが、だまって去っていく客や取引先は、どうしようもない。
原因もつかめず、手立てもなく、ただなんとなくじりじりと下がっていく売り上げを景気のせいにでもして、言い訳をしつづけることだろう。
とりあえずあたしがアタマをはる現場では今後ヤツの参加はお断りと会社に伝える。
あんたまだ若いんだ。
せいぜい苦しんできな。
闇生