そぼ降る雨の夜勤。役所の立ち会い。
元請の保安資材の準備がテキトーだったので、叱責されておった。
確かに元請のテキトーぶりは前々から目に余るものだった。
そのシワ寄せはあたしらケービにどっとのしかかっているのだけれど。
当人たちがそれを深刻に思わないのは「やっちゃえやっちゃえ」式の地場産業の土木屋にはありがち。
歩行者の導線なんか考えもしない。
横断歩道をダンプでふさいで平気でユンボをおろしはじめる。
おそらくその粗雑さは常々役所も感じていたのだろう。
なるほどこの現場にパトロールにくる役所はいつも不機嫌だ。
とりわけこの日はご機嫌斜めなのがいて態度がでかく、ましてやメタボで、オラオラ系で、終始ため口でおかんむりで。
繰り返すが元請のゆるさが問題なのだが。
発注者とはいえ社会人同士のやりとりだもの。言葉づかいくらいはどうにかならんのかとあたしゃ切に願った次第。
そうなると「そんなにおまえ偉いのか、人間として」という見方で周囲はメタボの言動を見張りはじめてしまうもので。
カラーコーンを蹴って移動させるのって、どうなのと。
深夜とはいえ隣家の敷地に平気で道具を置いたりするのも、あたしらは目配せでこっそりツッこむのだな。
ぷぷぷ、と。
クレームされろ。クレームされろと。
トイレに行くふりして匿名で通報したろかと。
あほくさ。
公園へ遁れる。
トイレがてらにひと休み。
藤を絡ませた櫓の下にベンチがあって、深夜だというのに中年のアベックが雨宿りして飲んでいる。
ご機嫌さんで、うらやましい。
仲間がひとり、この現場に愛想をつかして他でバイトを始めた。
配達はひとりで気楽でいいよーと。
現場がひどいと精神的に荒みますからな。
しかし、まいったわ。
翌週からはじまる長期現場のアタマを張れと会社から要請アリ。
人数も多く使うという。
現場経験もなく若いというだけで採用された内勤者たちに後方をあずけて戦場に立つ職長。いわゆるアタマ。
もう疲れたよ。
いち兵隊としているほうが楽だし、楽しい。
固定現場でアタマを張る奴が報われず、大役から逃げ続ける気ままな渡り鳥ばかりが稼いでいる。
夜半。
現場に接する戸建ての屋上で風呂上りの父子が戯れていた。
「おしごとがんばってくださーい」
声援をいただく。
ありがたし。
地元の人たちの穏やかな人柄に甘やかされてもきたのだろうな。この現場は。
今夜も空模様はすぐれない。
雨あがりの夜勤はどこもかしこも濡れていて、休憩中も腰をおろせる場所がない。
☾★闇生☀☽