差別。

 ここのところ現場は、都心幹線道路での水道管入取替え工事。
 むろん夜勤で、毎日残業。
 現場にあるインド・ネパール料理屋のカレーが、隊員たちの間で人気を博し、一晩に二度通う猛者まであらわれた。
 先に試したベテラン某がキャンペーンをはったのがきっかけで、いまでは他現場にまでその評判が広まっている。
 ボリュームのあるカレー弁当が500円というのは我々しがないケービ屋としてうれしい。
 あたしはといえばスープジャーにつくった雑炊を持参しているので、外食する必要がなくいまのところ御縁がない。
 しかし、仲間たちから見れば意地を張って食べないでいるように感じるらしい。
 意地を張るもなにも飯なんてものは、食べたくなったときに自分のタイミングで体験したいのだが。
 しつこく「この現場にいながらあのカレーを食べないのはおかしい」というようなディスりをされている。
 そうなってしまうともはや同調圧力ともいえる段階で、あたしとしては風に強くあおられるほどコートをもがれまいとするほかないだろうに。


 土曜は他現場だった。
 ここでもやはり一時間の残業で6時あがり。
 帰宅して飲んで眠ればもう日曜の十五時だ。
 ユニクロで靴下のまとめ買いと、夜勤用のインナーを購入す。
 そのユニクロの駐車場の警備員が黒人だった。
 この業界もどんどん外国人を採用しはじめている。
 そういう警備会社は単価の安さを売りにしておるようで、たしかに見るからに装備品が安物であった。
 防寒は大丈夫か、と他人事ながら心配す。
 日没後、かろうじて反射テープが何か所か張られたきりの黒い防寒着で黒人が車道に立っているのだ。
 夜行チョッキは着装しているが、手にしているのは誘導灯ではなく赤旗だ。
 はたして日本語がどれくらいできて、労働条件をどれほど了解したうえで勤めているのか。
 複数人現場なら仲間同士で助け合えるが、その店舗の駐車場誘導員は一人である。
 休憩時間などの交渉や現場固有の規定や状況や諸々の伝達ごとなど、どうしているのだろう。


 ただし、外国人を雇う利点は、クレームが少ないことだ。
 彼、誘導はどへただし、通過する歩行者の有無にはお構いなしに入出庫のオーライをしているが、誰も文句をいわない。
 かえって周囲が安全確認に気をつける事態になっている。
 その理由は、相手が言葉が達者ではない外国人だからだ。
 ケービ員が日本人だったならクレームなり罵りを浴びるところを、周囲の差別意識が逆に彼を守っている。
 同様のことは、ほかにもあって。
 苦情を受けやすい歩行者迂回の案内に、女性隊員を立たせたがる元請がある。
 これもまた差別心からだろうが、ただ実際にはたったそれだけで露骨に苦情が激減するのだから馬鹿にはできない。
 苦情で工事が止まることもあるのだから。
 おっさんなら罵られるが、若い女の子のたどたどしい誘導なら大目に見られるというところだろうか。
 差別意識を逆に利用しようというねらいだね。


 あたしらは差別に疎外されることもあるが、ときに守られもするし、その意識を利用してもいる。
 

 黒人警備員さん。
 頑張れ、と思うと同時に、外国人採用が増えるにつれて自分らの仕事も危うくなるのだなと実感。
 みんなと同じ物を食べないからといって同僚をディスってる場合じゃねえぞと。


 みんなと違うものを食べるというたったそれだけで、人は人を嫌いになれる。
 これは野田秀樹の『赤鬼』にあったセリフだったと思う。


 夕刻から飲んで仮眠をとってから夜中に読み書きしようと考えていた。
 んが、朝まで寝過ごしてしまう。
 活力の目的がみつからない。
 

 夜半、ガラスの割れる派手な音に驚き、目が覚める。
 階下に住む無職の酔いどれが、よろけて手をついた拍子に窓を割ってしまったとのこと。
 未明に洗濯。
 洗濯機を壊れたまま放置しているため、コインランドリーまでチャリをこいだ。
 仕上がりまでの時間、さらにチャリンコをこぐ。
 エリカ・バドゥを聴きながらサイクリングコースを川崎方面へ30分。
 折り返しで朝焼けの向かい風。
 爽快なり。



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エリカ様



 帰宅して、
 ラインのやりとりのキャッチボールが成立しない後輩を、ブロックす。
 このおっさんにラインの使い方を教えてくれた彼だが、おそらくUBEReatsの紹介金目当てでのことだったのだろう。
 いや、目的はそれのみだ。
 知っての通りUBERの紹介制度はライン経由。
 彼とラインを交換したとき、その働き方の選択肢の多さに興味が湧いていた。
 相次ぐ現場の雨天中止に嘆いていたころであった。
 あれから街なかで見かけるUBER配達員たちのマナーの悪さに反吐の出る思いをさせられること頻りで、いまではすっかりやる気が萎えた。
 警備員としては、オラオラでゆく信号無視、誘導無視、規制侵入や通行止め突破は、哀しいんだよ。
 凹むんだ。
 そんなこんなでなかなかUBERへ面接にいかないあたしに辟易したかのように、彼からの連絡が絶える。


 人がよいのでこちらはつい甘えて話しかけてしまう。
 んが、おそらくはこれがよろしくない。
 彼にも。
 むろんあたしにも。
 そもそも熱量のバランスがとれていない。
 いつものことだ。
 のけものとして、ゆく。
 つるまない。
 シンガー志望といふ。
 その楽曲を聴くに、自作の歌詞にはチリほどの毒もなければアイロニーもない。
 闇がない。
 ストリートで道行く人を励ましては感動を呼んでいく。
 ならば時として大衆の毒抜き役にあてられるガードマン稼業なんかにそまっちゃいけないのであーる。
 こんなとこにいるべきでもない。
 さっさと成功して去るべし。





 さて、今夜もきっと残業。
 夜半から冷たい雨の予報。



 闇生