壁の言の葉

unlucky hero your key

『太陽に灼かれて』感想。

太陽に灼かれて

 ニキータ・ミハルコフ監督作品『太陽に灼かれて』DVDにて


 舞台はスターリン体制下のソ連
 母なる大地と自然、見はるかす広大な農地のまっただなかにその一家は優雅に暮らしている。
 ロシア革命の英雄で、民にコトフ同志と敬慕される軍人とその一族。
 妻は若く美しく、娘はまだ幼い。
 時の流れもまた雄大で、彼らの幸福な退屈と団欒は永遠に繰り返されるかのよう。
 しかしそのおだやかな日常に、変化がおこる。
 徴兵されてのち長らく行方知れずとなっていた妻の元恋人ドミトリが帰ってきたのだ。
 一家は彼を懐かしみ、歓迎するのだが、ドミトリは都会からひとつの闇を胸に秘めて来ていた。
 やがてその静かな狂気が、コトフと一家の将来に影を落とすことになるのだが。
 はたしてドミトリ来訪の真の目的は、何なのか。




 事件は、独裁の緊張感からは遠く遠くかけ離れた大自然の田舎での出来事。
 ……であるかのように錯覚しがちだ。
 人は、個人的で幸福な日常というものは政治からかけ離れたものであると思いたがるもので。
 しかしながら政治というものはワタクシレベルの思わぬところにまでちゃんと作用しているものなのであーる。
 色恋沙汰にも、権力やイデオロギーは作用するのです。



 この映画は、雄大な自然と、そのおだやかで永続的な時の流れが全体を占める。
 とりわけのんびりとした豊かで微笑ましい退屈あっての、ラストとあいなる。
 なので幼女ナージャのあどけなさ、愛らしさがその幸福な退屈をやりすごす貴重な推進力となっている。
 その充実した退屈を愉しめるかどうか。
 そこが、この映画に受け入れられるかどうかの境界線になるはず。
 退屈あってこその後半の緊張感なのだ。
 確かにナージャの純無垢と、血なまぐさい政治権力との対比は見事だった。
 んが、
 その肝心のラストへのテンポがいまひとつ上がらなかったように思うのだがどうだろう。
 あれもまたお国柄というべきか。
 不穏な結末が予想されてから先は、もっとはしょっていいと思う。
 無情なほどのとんとん拍子で、スパッと落としていい。
 それでこそ時間的なコントラストが生きるというものだと。
 
 




 平穏で退屈な片田舎にしのびよる不穏な政治権力、という構図で『ディアハンター』を。
 それと『恋人の来た道』を連想。
 後者は出演者たちの純朴さと、小道具などの調度品がゆったりとした日常を愉しませた。
 武骨で、代々使い古されてきたらしい包丁。
 割れて継ぎ接ぎされた茶碗。とその背景にうかがえる文化。歴史。
 起承転結でいうところの『承』をおろそかにしない映画は、匂いを持っている。




 ☾☀闇生☆☽


 追伸。
 これは三部作の第一作なのだという。
 ただ、続編のあらすじを見る限り『アウトレイジ』的なものを感じてしまう。
 売れたから、むりくり次を考えました、的な展開。
 ナージャのその後は気になるけれど、この一作で完結しといたほうがよかったのに。とならなければいいのですがねえ。