壁の言の葉

unlucky hero your key

闇生です。



 麻生区百合丘



 交差点でのひとり片交現場。
 交通量もそれほどでないので誘導自体は比較的楽ちんだった。
 んが、
 トイレ休憩もないままに午後二時までぶっつづけだったのがちょっちつらかったかな。
 途中、
 軽自動車のご婦人がおひとり、ススメの合図で通りしなに車を寄せてウィンドーを下げる。
 またぞろクレームであろうと思いつつ伺うと、


「ごくろーさまー」


 弾けるような笑顔である。
 あまりの笑顔っぷりにどこかで会った人なのかとも思ったが、そんなわけがない。
 しばらくして、用事を済ませたのかまたもどってきて、


「ごくろーさまー」


 えへ。
 ありがたし。
 けど、すんません。
 なんか苦笑してしまったのだ。
 ゆとりのある誘導現場でも交差点がらみの場合、信号のタイミングを見ながらなのでそれなりに緊張はしているのであーる。
 青でながし切れないと対向車を塞いでしまうのだ。
 二度目だな、これで。
 川崎駅前でもかつてそういうことがあって。
 そこは工事がなくとも慢性的な渋滞がおこる地点。
 一回の青で二台とか、悪くすると一台しか流せない状況。
 真夏の炎天下のその緊迫した状況で、あたしは交差点側を仕切っていた。
 相方に「いちだーい」とか「さんだーい」とか声を張って通過可能な台数を合図する。
 そのうちの一台がやはり車を寄せて駐車して、ウィンドーをさげるや、
「ごくろうさまっ」
 コワモテのグラサンのおっさんであった。
 ありがたし。
 けど、タイミングが緊迫しているのよ。たのむ。流れちゃってくれ。


 どこかありがた迷惑でもあり。
 けれど、うれしくもあり。


 そんなメガありがたきプチ迷惑を、もひとつ。
 今日の持ち場は保育園の前。
 誘導するあたしの背中へ、フェンス越しに園児たちが声をかけてくる。
 つかのま、
「せえのっ、おまわりしゃーーん」
 の大合唱となった。
「なにやってんでしゅかあ」
「おしごとよん」
「おまわりしゃーーーん」
「おまわりさんじゃないよ。ガードマンだよ」
「うんこまん?」
「ガードマン」
「がーるぱん?」
「ガードマン」
「がーるまんてなんでしゅかあ?」
「わたしはまりかでーす」
「わたしはゆきあでーす」
「わたしはまりかでーす。まりか、でーーーーす」
「お・ま・わ・り・しゃーーーーん」
「はあい」
「なにやってんでしゅかあ」
「おしごと」
「せえの、お、ま、わ、り、しゃーーーん」
「はいはーい」
「お、ま、わ、り、しゃーーーん」
「……」
「でてきてくだしゃーい」
「わたしはまりかでーす」
「ゆうとでーす」
 
 


 
 ☾☀闇生でーす☆☽