壁の言の葉

unlucky hero your key


 そこにガードマンが立っている、


 というただそれだけで「通行できないのでは」と思ってしまう方が少なくない。
 たとえば交通誘導。
 交差点に立って誘導していると、
「こっち行けるの?」
 とフロントガラスの中で懸命にゼスチャーしておられる人がいる。
 なんなら苛立ってもいる。
 御自分が思っておられるほどフロントガラスの中って、外からは見えてませんから。
 こっちゃ、いちいち見てもいられませんから。
 夜はむろんのこと、
 昼でも日光の角度によっては反射して見えません。
 声も聞えません。
 べつに難しいことはひとつもありません。


 希望する方向のウインカーを点滅させるだけ。


 それだけ。
 通常と同じでございます。
 そういう意思表示のためにあるのですから、ぜひ使ってください。ウインカーを。
 もし、それが通行止めの方向なら「だめ」の合図をしますよ。ガードマンは。
 たったそれだけのことっす。
 今日も交差点の片交中に窓をあけてなにやら声をあげておられるお方あり。
 進めの合図をしても従っていただけない。
 見えないので駆けよって聞いてみると「左折できんのってきいてんのよ」とのこと。
 できると伝えて、いざすすめようとしたらそのタイムロスで信号は赤に。
 信号イチターンぶん渋滞した。
 去り際に怒鳴られたよ「何回も言ってんのにいっ」。
 聞えないし。見えないし。
 そもそもそこに通れない方向があるなら看板で表示しますって。
 でしょ?
 左折できません、とか。
 通行止め、とか。
 緊急の工事や、工事形態が流動的で看板が用意できない場合でも、上にのべたとおり誘導員が合図しますからウインカーで意思表示すればよいだけのことなのです。
 ウィンクするだけ。
 それと駐車場からの出庫。
 これも意外とウインカーを使わない人が多い。
 右折出庫したいのか。
 左折なのか。
 どうしたいのか。
 いちいちこちらがゼスチャーで問わなければならない。
 でその答えもまたゼスチャーで返される。
 だから、見えないってえの。
 ウィンクするだけだってえの。
 そうやって周囲や誘導員に意志表示すれば、もっともっと楽に安全に出入りできることでしょうに。


 ウィンクしようよ。
 

 こないだは歩道橋でこんなことがあった。
 歩道橋の橋げたの手すり工事に付き添ったのだが。
 それは階段の上に立って利用者の通過を職人に教える警備で。
「歩行者通りまーす」
 というあれね。
 出会いがしらの接触事故や、振り向きざまにペンキをつけちゃったなんてことのないように、職人に対して呼び掛けてるのです。あれは。
 その警備中。階段の下から不審げに「通れるの?」と声をかけられる。
 意外と多いんだ。これが。
 もし、歩行者の通行止めをするのなら、誘導員は階段の下に立つでしょう。
 なんなら「通行止め」の看板やカラーコーンで階段を封鎖することでしょう。(橋げたの路面を舗装したときはトラロープと看板で上り口を封鎖しました)
 それが工事施工者側からの「通さない」という意思表示です。
 わざわざ階段を登らせておいて、上までたどり着いてから「通れません」と言って引き返させるなんて意地悪はしないでしょう。
 

 存外、人は表示物を見ないのです。
 見ようとしない。
 自分の意思表示と他者の意思表示を確かめるだけで、日常はけっこうスムーズになるものです。 
 

 あ。
 ついでに。
 ガードマンがいるからいつもより安全、とは思いこまないで。
 少なくとも普段より安全でないことは確かです。
 だから召集されている。
 工事による交通誘導中の横断歩道を、子連れのママさんが手もつながずに、なんならスマホを操作しながら横断していくのによく出くわしますが、いくらガードマンでも誘導を無視して突っ込んでくる車までは止められませんし。はじき返せません。
 子供は小さいから、ドライバーはつい見逃しがちなのです。
 ましてやダンプの前などもってのほか。
 なにかしら通常とは違う事態なり、危険だからこそ、その予防や注意喚起手段として我々は呼ばれているわけで。
 我々が危険なのではなく、
 我々は注意マークなのです。
 たとえば片交をしてると平然と目の前の公道を横断し始める人がいる。
 横断歩道もなく。
 信号は車道の青である。
「車が来てますよ」
 と注意を呼び掛けると、憮然としてこうだった。
「見ててくださいよお」
 それが仕事でしょといわんばかりに。
 車道を横並びに歩いていく二人組。話に夢中になって後ろからトラックが迫っているのに気づかない。
 で注意をうながすと、これも「見ててよお」と。
 それはあたしらの仕事じゃないですから。
 任務の外。
 いち人間として、親切として注意したまでであーる。
 
 
 そうだ。
 マンション改装による足場架設の設置作業。
 上層階での作業中にその眼下、つまり地上を住人さんが通る場合などに我々は、
「歩行者とおりまーす」
 と鳶さんたちに呼びかける。
 すると職人さんは必要に応じて、作業を中断してフリーズする。
 手渡そうとしていた足場材も、抱えたまま、住人さんが通過するのをじっと待つ。
 それをいいことに、住人さんが立ち話なんぞおっぱじめる場合があるのだ。
 鳶さんは、材料をかかえて筋肉ぷるぶるして堪えているわけで。
 やむにやまれず住人さんに通過をうながすと「うっせえな」。
 悪くすればクレームとあいなってしまう。
 
 
 ま。いいか。
 愚痴です。


 今日の現場も修羅場だったの。
 みんなおつかれ。





 ☾☀闇生☆☽