左折、直進、直進の信号前の三車線。
 その左折レーンを規制した現場。
 テーパー*1に立っていると、真ん中の直進レーンの先頭で信号待ちをしていた車が動けなくなってハザードを焚きだした。
 そのハザードを見落とした後続車が一台、問題のエンスト車のうしろにぴたりとつけてしまう。
 信号が変わっても動かない先頭車の様子に業を煮やした後続車がクラクションで煽る。
 しかし、もともとハザードを焚いて道の真ん中に停車していたのだから、何かしらのトラブルで動けなくなっているのは明確なわけで*2
 そのハザードを見落としたうえに、しかもぴたりと詰めて停車してしまった奴のほうが不注意ではなかろうか。
 後方に次々と直進希望の車が停車してゆくから、引くにも引けなくなってしまう。
 後続車のおっさんはついに車を降り、先頭のエンスト車の運転席に歩み寄って何か怒鳴りはじめる。
 後ろにはどんどん車が溜まってくる。
 車のトラブルなのか、ドライバーの健康上の問題なのかわからないが、エンスト車は動かない。
 この後続のおっさんも問題で、エンスト車にぴたりとつけてしまったのなら、自分もハザードを出すべきなのだ。
 おっさんの車が先頭車のハザードを隠す形になっているのだから。
 これで工事の左折レーン規制と合わせて二車線が潰れてしまうことに。残るは中央分離帯側の一車線のみだ。
 するとおっさん、何を思ったかテーパーをしているあたしに向かって怒鳴り出すではないか。
 おいっ。おいっ。と弟子でも呼びつけるように遠くから手招きして曰く、


 なにやってんだよ。早く交通整理しろよっ。


 は?
 まず自分のついている工事にはまったく関係の無い事態である。
 冷たいことを言うようだが、少なくともそれをさばく『義務』はない。
 仮にそれを手伝うとしても、警備員としてではなく、個人の優しさでのことではないか。
 怒声で命令される言われは全くない。*3
 そして何度も言うが、交通整理と交通誘導はぜんぜん違う。
 整理は権力がなくては行使できない。
 つまり警察の特権だ。
 仮に信号が赤でも、警察が「進め」といえば進まなくてはならない。
 青でも「止まれ」と言われれば停車しなくてはならない。
 我々警備員にそれは許されない。できるのは誘導のみ。たかだかお願い*4である。
 手を貸してやろうかと考えていた時だっただけに、かえって神経を逆撫でられてしまった。
 すまん。
 心が狭くて、すまん。
 なので思わず非常なる正論を吐いてしまった次第だ。


「こっちの工事と関係ないでしょ」


 まるでこの渋滞があたしのせいで発生したかのような言いっぷりなので、つい。
 それに、勝手に持ち場を離れたすきに、持ち場でなにかあったらどうするのだという話だ。
 動くまえにまず仲間にそれを伝達し、簡単にでも引き継がなくてはならん。
 断わっておくが、原則的に、警備対象と関係のない事案の誘導は禁じられている。
 それで何かしらの問題や事故が発生した場合、個人では対処できないからだ。


 ついに、職人たちが集まってエンスト車のドライバーに声をかけることに。
 全員で安全なところまで車を押した。
 後続のおっさんは憮然として見ているだけだった。
 そして、憤懣やるかたなしといった態度で去っていった。
 事情はこうだった。エンスト車のドライバーは高齢者で、信号待ちの間にエンジン停止してしまって、ギアを『ドライブ』に入れたまま再スタートをかけようとしていたらしい。
 一旦ニュートラルに戻して一件落着であーる。
 

 ちなみに、似たようなことが過去にもある。
 片交に立っていたところ、そこから20メートル程離れたところに路駐した車があった。
 それに腹を立てた近隣住人があたしに「ここは駐車禁止だぞ。お前らちゃんと見張れよ」とな。
 彼もやはり激怒しておられたな。
 きっとああいう種類の方なんだろう、スピード違反で切符切られて「世の中にはもっと悪いヤツいるんだろ。泥棒とか殺人とかしてる奴が。そういうの捕まえろよ」とか、白バイ相手に抜かすのは。
 横断歩道の無いところで「(横断して)いい? いい?」と片交中の警備員言いながらもう横断しはじめているのとか。
 その横断を誘導するのも考えものだが、そのたびに車の流れを止めていたら、片交地帯の渋滞なんかちっとも解消されないよ。


 あ。そうそう。
 電線の工事をするバケット車*5についたとき、こんな人がいた。


「人助けだと思って、頼まれてほしいんですけど。ついでにうちの二階の雨どいの掃除もやってもらえませんか?」


 ついで、ですか。
 コレ、お金を頂いて、締め切りのあるれっきとした『仕事』なんですが。






 ☾☀闇生☆☽

 

*1:工事帯の先頭で誘導灯を振っているアレね。ヒマしてるアホに見えるでしょ? でも警備員の殉職で一番多いのがあのパートなのですな。ドライバーのスマホやナビへのよそ見で。または居眠りで。朝日や西日の逆光で見えなくてなどで、彼らはよくはねられる。何より後方の作業員の命もあずかっているから重要なのです。いざというときに「あぶないっ」と叫んで知らせなくては。それと優秀なテーパーは、早めの車線変更をうながすために、より合図が見えやすいように体勢を終始変えている。大型バスの後続車なんかは前方が見えないからね。このパートの危険度は、都会の中央分離帯の先端に立っている黄色い点滅信号が、いかに破損されているかを見れば分かりやすいと思う。ひんまがってたり、吹っ飛んでるの、多いでしょ? 新調したと思ったらまたやられてるとか。ようはテーパーってのは、あれの役割なのです。どうかドライバーの皆さん、彼らの命の軽さを気にしてやってください。

*2:ハザードを焚いて徐行しているのに、ぴたりと詰めて付いてくる車ってあるよね。なんだろ、あれ。アタマを逆車線に振ってバックで車庫入れとか、何かしらの変則的な動きをする意志表示をしているのだから、最低限、車間距離は置こうよ。

*3:せめて「ガードマン。ちょっと手伝って」くらいの言い方はできないのでしょーか。

*4:昔、熟練の運送屋のドライバー曰く「警備員の《オーライ》は疑え。けれど《ストップ》は信じろ」。けだし名言。

*5:ブームの先に人が乗れるカゴが付いた高所作業用の車。