壁の言の葉

unlucky hero your key

『累犯障害者』感想。

累犯障害者

山本譲司著『累犯障害者新潮文庫 


 ここにはいわゆるタブーがある。
 ゆえに、必読なのである。


 本作は触法障害者の実態に迫ったノンフィクション。
 繰りかえし犯罪をおこす身体障害者、および知的障害者についての取材と考察である。


 著者は元衆議院議員山本譲司
 かつて政策秘書給与の流用事件で有罪判決を受け、獄中の身となった。
 その塀の中で、彼の心をゆさぶったのが障害を持つ囚人たちの存在なのである。
 自力ではトイレすらこなせない者もいる。
 収監された理由すら理解できない者もいる。
 はたまたそこが獄中であることすら認識できない囚人までいたという。
 障害の種類や程度も関係なく、彼らは十把一絡げに法廷へと送り込まれ、そして刑務所に押し込められているのだ。
 想像してみてほしい。精神年齢九才の男が、法廷で執拗に裁判官に叱責されたあげくに、怯えきって「おかーたーん、おかーたーん」と、亡き母に救いを求める姿を。
 容疑は住居不法侵入。だがそこはかつて男が母と暮らしていた家なのだ。
 なぜそこに帰ってはいけないのか、それすら理解できない人間に対し、司法はあまりにむごかった。
 たとえば売春を繰り返す知的障害者がいる。
 売り上げをピンハネされても、それにはこだわらず「あたしをだいたひとはみんなやさしかった」と。
 有体に言えば、居場所が無いのだ。
 ゆえに罪を繰り返す。
 繰り返すほか、道もまた無いと。


 ここでは有名なレッサーパンダ事件も取り上げている。
 当時、犯人が逮捕されるやマスコミは一斉にこの事件について口をつぐんだ。
 犯人が知的障害者であると判明してのことだった。
 ばかりかその家族にも障害があるとわかった。
 福祉に触れる機会もなく。
 その知識もなく。
 唯一の稼ぎ手は末期がんを患う妹ただひとり。
「いいことなんか何もなかった」
 そうつぶやく彼女の壮絶な人生に著者は思いを馳せるが、マスコミはそんな背景にすら、蓋をしたのだ。
 あれほどの大事件ですら、そんな扱いにされる。
 ならばそれ以下の、大半の軽犯罪など取り上げられるはずもない。
 障害者の犯罪について、その後の処遇について、世間は知る機会すら奪われているのである。
 とどのつまり、
 馬鹿にされているのである。
 我々は。
 啓くべき蒙を持つのは「いわゆる」健常者の方なのに。



 彼らのその多くにとっては塀の外こそが冷たく凍てついた世界であり、塀の中にこそ安らぎを覚えるというこの現状。
 むろん障害にもよるのだろうが、与えられるべきは刑罰だけではなく、更生でもなく、介護や養護、とどのつまりが福祉ではないのか。
 それも法に触れるまえのケア。
 救いをもとめる手立てすら知らない彼らへの、攻めの福祉だ。
 そう確信する著者に、きっとあなたも共感するにちがいない。
 
 




 心して読め。


 ☾☀闇生☆☽


 追記。
 聾学校の授業に手話がない、というのに驚く。
 手話はやらず、読唇と発音の特訓による口話を教育しているのだという。
 手話は忌み嫌われるのだとか。
 ようするに聴者中心の社会に適合させようという、矯正教育のようなものだ。
 とはいえ、読唇にも発音にも限界がある。
 それゆえ彼らは社会で孤立する。
 聾者同士のコミューンを構成して、そこから出ない。
 手話もまた問題があって、その文法は日本語ではないのだそうだ。
 特に先天的聾者との筆談では外国人のカタコトのような文章になる。
 だからなのか聴者がつかう手話は、通じないと。
 などなど。
 もろもろ、目からうろこの一冊であった。