壁の言の葉

unlucky hero your key

五分の魂。

 台風一過。
 この日は都心で社内研修が催され、
 朝の時点でJR、私鉄ともに運転見合わせという非常事態に運営が中止の判断をくだすであろうと期待していたのであるが、
 そこはバカだもんで。
 なんらかの命令系統と規律に従って行動してこそ集団なのだが、
 その決定権をあずかるアタマが、状況をよんで撤退、中止の英断を下せないレベルだということを露呈してしまい、あきれ返って半笑いの闇生なのであった。
 こうなりゃ非常時の社会見学だと肚を決めた。
 京王線が9時に動き始めた報をうけて駅へ。
 満員のため三本見送り、乗り込むと、暗黒舞踏団のストップモーションのような体勢で車内に詰め込まれる。
 明らかに知的障害をもつと思われる中年男性が、目のまえの女性の肩をなでてしまうのを、その保護者らしき人が何度もたしなめていて、どうしたもんだろうかと。
 明らかに知的障害をもつ、というのはあたくしの判断であり、
 当のなでなでされている女性がどう解釈しているかは不明であるし、
 なにしろ暗黒舞踏団だ。
 どうにもならない。

 にしても、
 この事態になっても社会の会社の多くが、兵隊に出動を求めているというのには毎度呆れるしかないのだが、
 それよりも、
 この事態を知って、ジャージにリュックにテニスラケットといういで立ちで乗り込んでくるお年寄り集団というのも、なかなかにあれだった。
 末期まる出しだ。


 例によって苛立つしかない状況なのは明白で、
 それでいて案の定苛立って、勢いあまって殺気立ってまでいる人たちもまた、客観的にみれば哀れなほど滑稽であり。
 そうまでさせて出勤させんなよ、
 と思う以前に、苛立ちで周囲の神経を逆なでにしてまでして出勤するその職業のほうが気になってしまう。
 苛立つ状況とあらかじめ覚悟できたはずのこのシチュエーションで、ベタに苛立っているのは何屋さんだろう。
 おまえがこの日何時間遅刻しようが、休もうが、社会的には屁ほどの影響も与えられないだろうに。



 とこの兵隊は思った。



 闇生