壁の言の葉

unlucky hero your key

耳の亡霊。

Money Jungle/Duke Ellington

 あたしゃエロDVD屋でござる。
 だもんで商売柄、風俗情報誌なんぞも、若干ではあるけれど、取り扱っていたりする。
 たいがいあの手の雑誌には割引券というのがついておりまして。
 それを切り取って、指定の店で提示すると、まことにもってリーズナブルであると。
 購入されるかたの大概が、それ目当てだったりするようでして。

 
 年末にここ壁の言の葉でもSM雑誌の老舗『S&Mスナイパー』の廃刊に触れたばかりではあった。
 んが、
 なんとこの風俗情報誌も相次いで廃刊に追い込まれているご時勢だというのだ。
 まず最大手のナイタイが、昨年末に休刊。
 そこへきて今度は『ナンバーワンギャル情報』が、3月25日発売号をもって休刊と。
 その通知の文面には、作り手の無念がひしひしと漂っていて。
 以下、引用。


「昨今の雑誌媒体の落ち込みは目を覆うばかりで、創刊当時、数え切れない程あった風俗情報誌はことごとく姿を消し…(略)
 しかし、我々は、紙媒体が必要とされなくなったとは思っていません。今回の休刊はあくまでも、読者のニーズを満たせなかった、我々の力不足のためだと…(略)」


 涙ぐましいではあーりませんか。ねえ。
 エコとか考えれば、やっぱそうなっていくのが望ましいのでしょうかね。
 情報はすべてネットでと。
 映像も、ネットで。
 にしても、
 となると雇用は踏んだり蹴ったりだな。


 あたしゃ古い人間です。
 だから、どうしてもネットだけでは満足できんのです。
 Weeklyぴあの縮小化も、つくづく残念でね。
 なんかね、ネットだけで情報をあさっていると、たかだかちっぽけな自分が興味を持っているものとか、そんな自分を肯定してくれるものばかりをクリックしてしまうのよ。
 どうすか。
 俺だけ?
 ほとんど読まないクラシックだとか、アートのページの小さな小さな記事や写真に驚きがあったりと。
 新聞や雑誌って、そういう、まるで興味のないものに鉢合わせるチャンスがあってね。
 それが刺激の呼び水となって、さらなる興味を掻き立てられたりするのだ。


 とかなんとか能書きをたれてますが、それも時機に慣れていくのだろうね。
 どうせ。
 雑誌を知らない世代というのも、遠くない将来には、あるとおもいます。
 けど、同じような理由でCDショップもいまだに好きです。
 ジャケ買い
 店員の熱気あふれる推薦ポップ、
 試聴コーナーの独断で構成された並び。
 これらにいったい何度、アーティストとの貴重な出会いを演出されたか。


 いや、
 それ以前に、もっとも大きかったのが、空間ですわ。
 それに尽きますわ。
 郷里には大きなCDショップがなくて。
 だから、上京したばかりではじめて訪れた大型輸入CDショップの、あのだだっぴろさには、ただただ圧倒されたものだった。
 ああそりゃすごかった。
 その頃、新宿の丸井の地下にVirginがあって。
 エスカレーターで降りていくと、バカ高い天井の下はワンフロア。
 どど〜んと贅沢につかって内外のCDが溢れかえっていたのね。
 で、何にそんなに驚いたかっていうと、それらのほとんどが、過去のものだという。
 そこ。
 新作と言われるものは、極々一部で。
 しかも、その中でも「音楽的に新しい」ものは皆無に近く。
 ただそれらは新しく制作、発売されたというだけのニュー・リリースにすぎないと。
 ちなみに新作コーナーと、
 それ以外の膨大な数の音源と、
 いったいどちらが外さないかといわれれば、考えるまでもないことで。
 SP、ビニールレコード、CDといった具合に、その時代ごとの膨大な『耳』に耐えてきたものには、少なくとも一聴の価値があるわけよ。
 その、
 通り過ぎていった膨大な『耳』の亡霊を、その巨大な空間に感じたのだな。
 闇生は。


 でね、
 レンタルビデオ屋に勤めていたときに痛感したのだが、『新作信仰』って根強いでしょ。
「なんかおもしろいのなぁい?」
 とか言っておきながら、薦めると、
「でも、古いんでしょ?」
 なんだ、その『でも』は。
 未体験なら、あなたにとっては新作だ。
 おばさんでも、新しい恋人は、新しい恋人だ。


 音楽に新しいも古いもない。ただ良いものと、そうでないものがあるだけだ。


 そういったのはデューク・エリントンだ。
 1920年代のスイング・ジャズの大御所が、40年代のビバップの先鋭と堂々とわたりあったアルバム『Money Jungle』を聴いてみなよ。
 ぶっとぶぜ。
 この先、媒体がどう変わっても、情報にたいする姿勢はいつもそうありたいものです。






 ☾☀闇生☆☽



 そうそう、新宿のTower Recordsがまだ駅ビルの中にあったころ。
 タンゴの革命家アストル・ピアソラとの出会いは、そこの店員のポップがきっかけだった。
 フロアが狭いから、どのコーナーにもなじめず、なんとクラシックコーナーの試聴機にかけられていたのだ。
 おそらくはその不遇が、熱き店員をけしかけたのだろう。
 殴り書きでたしか「モーツァルト、ベートーベンらに並ぶ、今世紀最大最高の作曲家」とかなんとか。
 ありがとうよ。あのときの店員。