壁の言の葉

unlucky hero your key

Play With Me.

Jeff Beck/Wired


 闇の中で目が覚めて、それきり眠りが深まらない。
 お客さんと口論している夢をみた。
 眠ってまで苛立つくらいならと、六時にあきらめて起きた。
 いそいそと朝食の支度にかかる。
 ストレッチをしつつ風呂を用意して、いざウォーキングへ。
 勤務日の早朝に敢行するのは、いつ以来だろう。
 道づれはジェフ・ベックだ。
 

 『Play With Me』


 クラビネットのリフに、思わず唸る。 
 唸りつつ速度を増して、ひたすら歩く。
 そこは早朝だ。人通りがないのだから、ゆるして欲しい。
 にしても、この曲のシンセ・ソロは、アレだね。
 ずるいね。
 とぶよ。
 

 なら、とべよ。


 哄笑と号泣が、背中合わせなのだ。
 あ。いまならどっちもできるな。俺。
 快楽と苦痛も、
 希望と絶望も、とどのつまりがそういうことだと。
 んで、
 こんな時間にも働いている人がいるということを、あらためて、あらためるのだ。
 十時開店のスーパーの中に人影。
 だだっぴろい店内。
 エプロン姿のおっさんがひとり、黙々と作業をしていた。
 なんかぶつぶつ言っている。
 笑ってもいる。
 店長さんだろうか。


『Love Is Green』

 
 帰還すると、ちょうど炊き上がった飯の匂い。
 だくだくの汗を流し、
 もろもろを水に流し、
 湯船に浸かる。
 そこはひとつ、かたじけなく温まる。
 熱い味噌汁。
 炊き立ての飯に納豆。
 昼用の握り飯もつくって。


 んで、「いただきます」ってか。
 毎度毎度、芸がない。

 
 んが、なんのことはない、
 まんまと仕合わせもんである。
 ついでに性懲りもない。
 ぬけぬけとまた一年生きてるし。
 よっしゃ、
 生きてるし。
 これはあれだな、
 通勤はVAN HALENだ。


『踊り明かそう』


 ん?
 どっちのダンスがアホか、競う?
 やめときな。
 いまの俺は、一晩中でも負ける気がしないのだ。


 


 ☾☀闇生☆☽


 とはいえVAN HALEN
 最近は、後期のをよく聴くのである。
 シャウトしちゃったときのサミーが苦手なのと、感動路線のバラードに照れちゃってね。
 若いころは距離を置いていた。
 ああいうロックは、ショウビジネスのいかがわしさと、馬鹿馬鹿しさあってのものなのだ。
 そのへんのところ、初代ヴォーカリストのデイヴは熟知していて。
 うん。
 輝いていたよ。