夜勤明け。
性懲りもなく飲んで眠って10時半、目がさめる。
体はまだ寝足りない感触。
これは「いまアルコールが分解されました」といういつもの一回目の目ざめにすぎない。
寝ちまおう。
なんて考えもあったが、うつらうつらしながら「甲州道中のつづきをどうするか」そればかりが頭をめぐる。
いっそ盆休みを利用してはどうか、
などと考えてるうちに、覚醒してしまうのだな。
歩くのを先延ばしにするとして、じゃあ今日の休日をどう過ごすのよと。
だらだらすんのかよ、と。
危惧するのはこの終わりの見えない酷暑。なによりもそれ。
夜勤明けの峠越えに、どうなんだと。
と気づけばまた逡巡している。
その時間がもったいないのだよ。めっ。
日々の勤務のために冷凍室で凍らせておいたペットボトル類を保冷バッグに詰め込んで、
そいつをデイパックに放り込んで、アパートを出た。
前回の中断地点『高尾』についたのが12時半。
いくらあたしでも酷暑に飯抜きで峠越えをおっぱじめるほどギャンブラーにはなれない。
そういうのをワイルドとはいわない。
腹ごしらえに近所のガストでカツカレーをかきこんでおいた。
20号を西へ。
スタートしてまもなくに浅川に架かる両界橋を渡る。
たもとにはお地蔵さんがあり、
川はすずしげで少年たちが水遊びに興じていた。
奥手に見えますでしょ?
よろしいですな。
少年の日の夏休みだ。
西浅川の交差点で20号とお別れ。
国道の喧噪から逃れてセンターラインのない風情の良い路へ。
まもなく小仏関跡。
明け六つから暮れ六つのあいだのみ通行がゆるされたのだそう。
俗に『入鉄砲出女』といわれ、
銃器の入国と女の出国は条件が厳しくされたという。
入女はほぼ自由と。
手前にある石ふたつ。
あれはべつに飛び石ではございません。
許可をいただくまで手形をおき、手をつく石だそうで。
関所破りは磔(はりつけ)。
すぐそばに駒木野宿跡。
すでに汗が噴き出している。
手の甲には大粒の汗玉。
額からは目に流れ落ちてくる。
襟にひらひらのついたキャップをアマゾンで買ってこの日に臨んだから襟元は救われている感じがするのだが、なかなかのもんではないか。
夏のやつ。
この念珠坂の由来は、
むかしこの坂には鬼が棲んでいて、
その鬼に襲われた老婆がしていた念珠が飛び散って鬼の足をすべらせ、坂下まで落としたという伝説からだそうな。
そぼくな話だが、碑が建ってしまうほどのことであるから、当時はこのあたりでそうとう流行った話なのだろう。
しかしまあ、すごいよ。
逆行して峠方面から歩いてくる人もいれば、ジョギングしてくるカップルもあったりするからね。
この祠のあたりの木陰が涼しかったですな。
なかにひとつだけ浮いたお地蔵さまがおられまして。
おそらくはもげちゃった頭部を、善意で復元したのだろう。
けれど、首から下とはあきらかに時代がことなって。
それはべつに材質の問題だけではなく、時代に適った写実性の違いと感じられ……。
はい。
生々しく浮いておられます。
このあたりから道は川に沿ってゆく。
例のマイナスイオンとかいうんですか。
あたしゃ見たことないですが、たぶんそんな効果もあるんじゃないかと。
涼、ありがたし。
つづく。
☾☀闇生★☽