壁の言の葉

unlucky hero your key




 管理人がうるさそうなマンションというのを、よく目にする。
 それはマンション内のいたるところに貼り出された注意書きに現われているもので。
 マンション回りの駐輪、駐車禁止はむろんのこと、犬を連れての敷地内の通り抜け禁止。
 ありとあらゆる場所には私有地の主張。
 トイレには「必ず水をながすこと」。
 通用門には「閉じる時は静かに」、「必ずきちんと閉じてください」。
 花壇の柵には「ここに座らないでください。壊れます」。
 ベンチには「禁煙」「深夜の大声でのおしゃべり禁止」
 壁という壁にそれらの注意書きが貼り出されているのである。
 思うに、マナーの無い人たちは、あんなものをいちいち読まないさ。


 それに、なんかギスギスしてて、気持ちのいい風景ではない。

 
 たとえばそういうマンションの一階にコンビニが入っている場合、案の定、同じように規則の貼紙が魔除けの御札のごとくに貼りめぐらされる事態となる。
 おそらくは管理組合からのお達しなのであろう。
 店頭には「駐輪禁止」を貼ったカラーコーンとトラバーで、さながらバリケードのごとき防御体勢を見せつけていたり。
 店頭での飲食禁止。
 犬をここにつながないでください。
 ゴミ箱にはおなじみの「一般ゴミの持ち込み禁止」は当然のこと、「たとえ当店で購入した商品であってもいったん持ち帰ったものは一般ゴミとなります。店舗が処理するゴミは事業系ゴミと見なされ、有料で処理しなければなりません。それら一般ゴミまで店舗が有料で処理するのは大変なのです、云々」。
 まったくもって正論なのだ。
 あんたは正しい。
 んが、
 相手はそんな「文章」など絶対に読まない種類の人間さまなのである。
 個人的なゴミをそこへ棄てて平気な人たちなのだから。
 かなり年配の女性たちが、自転車で訪れては「生ごみ」を平気でそのゴミ箱へ棄てて、しれっとして去っていく。
 よく見かける光景だ。
 期限を過ぎたらしき惣菜やら、なんやらを透明のビニール袋で。
 通りすがりの空き缶ポイは当たり前。
 職人風情は買い物がてらに昼に食った弁当ガラを十把一絡げに捨てていく。
 缶もトレーもいっしょくただ。
 分別も何もあったもんじゃない。


 これらを解決する何かいいアイデアはないものだろうか。
 啓発でなしに。


 そもそもコンビニが店頭にゴミ箱を置くようになったのは、この二十年くらいだったように思う。
 たしか当時、ゴミ箱を設置するコンビニの地図付きの案内が、行政からの広告だったか、あったと記憶している。
 ようするに、それをすることによって設置に協力しない店舗があからさまになっちゃうわけで、有体に言えば民主主義的「恫喝」だったと今も思う。
 あれをやられたんじゃ、設置しないわけにはいかないわな。
 ひょっとすると都内の一般ゴミの袋が半透明に規定された頃と、時を同じくしていたのではなかったか。
 半透明では捨てにくいものの逃げ場としての搦め手門ではなかったか。
 いまでは当たり前となった半透明のゴミ袋も、当時は随分と物議をかもしたものだった。


 いまさら「ゴミ箱を設置しない」コンビニをやるのは無謀だろうか。
 その分、安くするとかさ。
 たとえばローソン100あたりが、展開していくときにそれをやっていたとすれば、広まっただろうか。


 元同僚が、コンビニで働きはじめたときに嘆いていたっけ。
 あのゴミの片付けをするときほど大衆というものに憎悪を感じるものはないと。
 それもじきに慣らされるのだろうし、それが人によっては感受性や理性などとあいまって人物の練り上げになっていくのだろうけれど、肝心の棄てた方の心は、いったいどこで練られるのだろう。








 まず、相手は言語が通じないものだと覚るべし。
 だからむしろ、
 野良猫に対するペットボトルとか、
 害鳥対策の目玉のマークとか、
 そういう観点で考えなくてはならんのだな。
 





 つまりね、
 信号なしの左折オンリーでやりくりする環状交差点「ラウンドアバウト」のやうに、ということです。
 どうせ効果の少ない注意書きである。そんなのなしで、うまいこといく方法はねーのかと。
 





 ☾☀闇生☆☽