都市開発地帯、街路築造工事。
環二のとある交差点、四方向右折禁止という大がかりな規制。
規制車四台+資材車。
これまでの規制は別会社であった。
しかしこの盆明けから規制が大がかりとなり、設置・誘導だけで総勢三十名を要することに。
前任の規制会社ではその人数が出せないという。
よってこの八月からは弊社が採用されることとなった。
あたしゃこの現場では春からヤードのゲート番を務めている。
ゲート番は誰よりも早く出勤し、作業終了後もヤードからすべての車両が退場するまで残る。
よって規制チームとは別として扱うよう会社には再三念を押していた。
だって割に合わないではないか。
たとえば作業および規制が午前二時に終了したとしても、作業員たちはすぐには帰らないのだ。
早く帰ると日当にありつけないのだという。
経営者がETCの履歴をチェックしているそうで、ごまかしも出来ない。
これまで平均で一時間、最長で二時間は置き場で時間を潰された。
彼らが退場しない限りはゲートは閉鎖できないし、当然のことながらゲート番は帰れない。
それなのに、規制までうちの会社となると同じ会社のよしみで規制班の休憩回しまで手伝わされるおそれがある。
ところがそれらの事情を知ったうえで規制班のアタマが直々に協力要請をしてきたのである。
せめて誘導チームだけでも仕切ってくれと。
彼は先輩でありベテランで、これまで教わったことも苛められたことも多々あった。
内勤を丸め込まれて現場を奪われたこともある。
けれどそれにもかかわらず後輩であるあたしに頭を下げてきたのであーる。
規制班だけでも規制車四台+資材車一台、十二名。
それらを仕切るだけでもひと苦労なのに、毎日顔ぶれの変わる誘導が十五名もいる。
その面倒まで見るのはさすがに骨が折れるのだろう。
口説かれて、渋々引き受けることに。
結果、先方は弊社の規制の迅速さにおおいに満足していただけたようで。
作業開始がそれまでより一時間も早くなったという。
また、所長はこれまであたしがゲート番をしている姿しか見たことがないので大変に驚かれて。
「闇生さん、かっこよかったー」
見直して頂いたご様子だ。
が、むろんお世辞だろう。
けれどまあ、悪い気はしないわな。
あとは、各支社からの寄せ集めである誘導連中を日々どう操作するか。
毎日が新規の群れ。
はじめましてからの開始。
彼らにしてみれば、自分の支社の現場でもないわけで。
大概がゲスト気分でやってくる。
それをそれぞれの経験値、および理解力の差を把握してどうエスコートするか。
くわえて他支社から借りたドライバーたちが曲者ぞろいときていて。
ええ歳こいて夜郎自大な連中ばかりなので、うちのドラといつ衝突するかという問題がある。
初日はさすがにバタバタした。
これはいつものこと。
が、かえってそれで我らがアタマの旧式エンジンンがあったまったらしく、不甲斐ない配下を叱咤する声が何度も轟いた。
なつかしい。
そう、数年前まではそうやって現場で怒鳴り合いながらやっていたのだ。
そういうもんだった。現場は。
緊張感が萎えて倦怠してしまった現場が一番あぶない。
事故になる。
なごやかな空気も、なあなあに陥る危険を孕んでいる。
それがうっかりミスを生む。
事故で現場が止まったらアウトである。
怪我すりゃなおさらである。
開始当初は日々クレームの嵐となるだろうと予想された。
しかし今のところは予告看板を見逃したタクシーからの難癖。
もっと手前から看板で予告しろといういつものやつ。
むろん看板は約千メートルあたりから常設してある。
それともう一件。
迂回路の説明を受けてタクシーが走りだそうとしたがタイミング悪く信号が赤になった。そのため停止願いしたところ後部座席の客が激昂。
降車してクレーム。
試合前のボクサーのごとくに顔をすれすれまで近づけて誘導員を恫喝。
この手のチンピラ風情には道理やルールは通じない。
現場代理人を呼ぶ。
個人的には、この手の輩の場合、相手にせずただちに警察へ通報するほうが良いと思っている。
その二件くらいだな。
規制の規模からすれば極端に少ないと思う。
大型トレーラーや箱車のドライバーたちがみな協力的なのがありがたい。
道が完成すれば、その道のお世話になるのがかれらプロたちなのだ。それを意識してくれているのだと思う。
楽しみにしていてほしい。
ともかく、きわめて順調かな。
先方も驚いていたが結果は満足していただけているのだから、まあ「よし」というところか。
割に合わない役割を引き受けてしまったが、
くわえてそれを誰にもわかってもらえていないけれど、
プライドの高い先輩アタマも、自分が楽をするためにあたしを巻き込んだに過ぎない。
してやったり、だろう。
バカを見てみることにする。
成り行きにまかせる。
☾☀闇生☆☽
2023.09.01.