壁の言の葉

unlucky hero your key

現場。

 ケービ6人枠の水道工事現場。
 応援の四人が四人とも片交初心者という事態。


 嗚呼。


 唯一顔を知っているのはダブルワーカーKさん。
 しかし相変わらず成長がなく、反応がにぶい。
 すべての判断がワンテンポ遅れる。
 それでも現場は、少なくとも片交だけは成立させなくてはならない。
 それだけではマズイのだが。
 都道の交差点。
 交通が落ち着くまではあたしがセンターを仕切った。
 仕切りつつ、自分が休憩する間はだれに交差点を任せようかと考える。
 他支社のIさんは初対面だが、会話のキャッチボールの感じで危ういと判断。
 察しがにぶい。
 いちいち説明し、言葉を変え、直しながらやりとりしなくてはならない。
 そういうひとが信号のタイミングをみながら瞬間瞬間の状況判断を下せるとはおもえない。


 連投屋Fさんは、別現場で一緒になったことがある。
 言われたことのそれ以下しかやらないカカシ。
「ここ見てて」
 と頼むと、ほんとにその指をさした場所に棒立ちになって、一方向をじっと見ている。
 うちのダンプが接近してきたら無線飛ばして、と頼むと、何分おきにチェックしたらいいでしょうかと聞いてくる。
 は?
 いまのところ15分おきに見ることにしている、とのこと。
 へ?
 その位置から見えない? と聞けば、そちらを向けば見えますと。
 じゃ向いてよ。
 どのポジションだろうがケービだもの、ちらちらきょろきょろするのは仕事だろうに。
 呆れて見てると、ほんとに15分おきに時計を確認し、一、二歩車道に近づいて、首をのばして言われた方向を見ていた。
 彼は現場を俯瞰しようとせず、自発的な判断もしないから、状況が変化しつづけるポジションはまかせられない。(そんなポジションなど存在しないのであるが。)
 だもんで現場では身体も心も疲れることもないらしく、指定されるままに複数の現場をわたりあるき、内実は別として出勤数だけで稼ぐ。
 「仕事をする」という感覚ではなく「報告書にサインをもらいにいく」という感覚。
 ああいう生き方もあるのだな、と。
 仕合わせそうだなと。
 この種のニンゲンが少なくないことを知ったのは、ケービをはじめてからである。
 


 残るはKさん。
 6勤目ながら、感じのよいお父さんで、受け答えの反応が良く、日頃から運転にも携わっているというから少なくとも車の動きはわかっている、とふんだ。
 そばで一時間ほど自分の誘導を観察させた。
 それからセンターをまかせようとしたのだが、肝心の相方(ダブルワーカーKさん)がまったく駄目だ。
 これでは任せられない。
 休憩をずらして、相方側の代打をさせてみる。
 頭Fさんが休憩に行ってしまい、規制帯の真ん中をみる人間がいなくなった。
 これはいけない。
 おもいきってKお父さんをセンターに呼び寄せて任せてみる。
 15分ほどそばでフォローして、それから完全にまかせた。
 誘導動作はまだまだだし、イレギュラーな状況には反応がにぶいが、理屈だけはわかったようで、それだけでおんの字である。


 つまらせるわ、
 流し足りないわ、
 互いに止めあってお見合いしてるわで大変ではあったが、なんとか一日を終えることができた。


 気にかけてくれたのだろう。
 0時過ぎに本来の常駐リーダー、ミリヲタDさんからショートメール。
 彼は他の現場にかりだされている。


「何事も無いですか?」


 誘導中だったので顔文字だけ返した。


(ToT)


 2時過ぎにやっと休憩がとれたので、文章で返信す。


「全員片交初心者っす。内、ど新人×2。カカシ×2。盛り上がっております!」


 3時、返信あり。


「ガンバレ!!」


そして3分後追伸。


「頭F、吠えてる?」


 これに返して「みんな吠えてます。」




 頭Fさんが吠えなくてもいいことで吠えるのはいつものことだが、あたしもこの夜は吠えずにはいられなかった。
 新規で、新人で、しかもできない人たちだ。彼らが現場を理解できてないのはわかる。
 だから吠えたところでどうにもならない。
 けれど、動き続ける現場状況からすれば、声をあげずには進まない状況がおこるのであーる。




 帰宅後のお酒のおつまみは、唐揚げ弁当とねばねば系のサラダ。
 豆腐や肉類の惣菜でたんぱく質を、くわえてポテチと豆系というのが定番なのだが、この日は変えた。
 芋焼酎のお湯割り一杯と、チューハイのショート缶一本でダウンす。
 今日は走った。
 汗かいた。






 ☾☀闇生☆☽