壁の言の葉

unlucky hero your key

部屋とクーラーと私。

 押入れの奥地から窓付け用クーラーをひっぱりだした。
 ここ数年のあいだずっと視野の外、思慮の外へと後ろ足で押しやって放置していたのであった。
 それは御徒町のエロDVD屋に勤務しているころ、バイトの子に説得されてしぶしぶ購入した代物で。
 なんせ我が詫び住まいとするボロアパートは、入居当初にはまだどの部屋にもエアコンが設置されておらず。
 しかしながら住人が入れ替わるたびに畳敷きがフローリングとなり、同時にエアコン付きが標準設備とされていった。
 最も古い住人であるあたくしの部屋だけが取り残された。
 畳敷きのエアコンなし。


 まあ、そのうちどうせ引っ越すからいいや。


 とそう高を括っているうちに時代は令和となる。
 世間ではクーラーを使わず屋内で熱中症となる老害たちが取り沙汰され、SNSでは嗤い者にされていた。
 これはいかんとバイト君の説得を聞き入れて注文。
 購入した窓付けクーラーの設置は猛暑の休日、なかばやけくそになって自分で取り付けた。
 そのせいで窓枠には隙間が生じた。
 効きもパッとしない。
 それでもまあ、無いよりはましなのかなーと。


 毎夏せいぜい一週間くらいだろうか、クーラーが活躍したのは。
 

 その後数年稼働した。
 が、ある夏なぞの咳に苛まれることに。
 原因は不明であったが、クーラーのなかにカビが繁茂しているのではとの疑念を抱くのだな。あたくしは。
 クーラーにはカビ防止のための内部洗浄機能というものがあり、運転したあとは必ずその機能を使うことにはしていた。
 なので安心していたのだけれど、どうもあやしいぞと。
 ためしにクーラーの使用をやめてみるとどうだ。咳が治ったではないか。
 やっぱりか。
 と取りはずして現在に至るのであーる。


 とはいえ、酷暑。
 あたしも歳をとっている。
 歳をとると自覚できぬようになるらしい。暑さが。乾きが。衰えが。
 何をきっかけにおっちぬかわからんし、そんな最期はあまりにアレだ。哀れだ。
 だもんで押し入れの奥地からブツを発掘し、
 廃棄してしまった窓枠を新たに取り寄せて設置。
 いまその科学技術の恩恵にひたひたと浸りつつこれを書いている。
 窓枠の隙間は入念に塞いだ。
 もうね、つけっぱなし。
 今のところ咳は出ない。
 だもんで休日はウォーキングにも出ない体たらくだ。


 おかげで見切り発車でこんなふうにブログを更新している次第。
 むろんオチもない。



 今から夜勤。
 クロスカブで向かう。



 
 ☾☀闇生☆☽