壁の言の葉

unlucky hero your key

能面のひと。

 昨夜はどしゃぶりの雨のなか都心での夜勤。
 ゼネコンさんの現場。
 先日、スーパーゼネコンの一社から新型コロナによる死者が出た。
 その社はただちに緊急事態宣言解除まですべての現場にストップをかけたわけだが。
 その影響からだろう。
 横綱にならえとばかりに大関以下の面々が右にならえをしている。
 つまりゼネコン以下の建設会社でも、現場を止める動きがでている。
 昨夜のあたしがついた現場は横綱よりはるかに格下。小結格の現場ストップ前日という状況。
 あの雨の予報で夜勤をやること自体、気が萎えるのに。 
 それに加えてコロナと都心という状況。
 しかも監督はガードマンには挨拶もかえさない終始むっつりした若造。
 不快だが、しかたない。
 作り始めてまだ完成していない状態の規制を、スマホで誰かと話しながらチェックにあらわれて、挨拶もなく、目も合わさずAバリの向きを直して回って、それでまた黙って去って行った。
 規制をつくっている最中にそうやって邪魔しにくる元請が過去にもあった。
 邪魔なんだ、あの手のやつら。くそいまいましい。
 作業の邪魔だから危険だし。
 なかには良心なのかなんなのか手伝い始める奴らもいて、それはそれでこちらの手順を妨害されるから、邪魔。
 同時に人の仕事に手を出すのは侮辱でもあることに気づけ。
 そして一発で完成形を要求しやがんの。
 んなあほな。
 絵と同じでおおまかな輪郭をつくってから、細部を書き込んでいくのが原則でしょ。
 まずは安全のための外郭をラフにつくる。
 それから詰めていく。
 バリの向きなんてウエイト設置のついでに直すってえの。あほが。
 えらそーに。
 不快だが、しかたない。


 そういや昔、数年かけた東京駅リニューアル工事の完了を告げる新聞広告があった。
 新聞を見開き全面つかった贅沢なもので、
 その工事にかかわった業者が100人以上集合したといった触れ込みの俯瞰写真だ。
 彼らの職種は、その作業着で推測できた。
 鳶や測量、舗装関係、塗装、設計、元請、各種重機オペなどなど。
 隅から隅までチェックしたのだが、警備員はひとりも映っていなかった。
 そういう考え方なのである。ゼネコンの警備員に対する考え方とは。 
 警備員は「 いっしょに作った仲間 」とは認識されていない。
 立たせとけ、の扱い。
 そのくせなんじゃかんじゃと注文をつける。
 不快だが、仕方ない。
 とは思わない。
 警備員も現場を選ぶ。
 能力があって指名のかかるレベルの隊員は、そんなとこ蹴っているよ。
 結果、現場を選べないレベルにいる隊員がそこに集められる。
 だもんで不手際が生じやすくなる。 
 元請は神経質になる。
 誰彼かまわずむっつりする。
 蔑視する。
 その蔑視に、こっちはむかっとする。
 むかっぱらが立ったまま仕事するから、注意散漫となり、また不手際が生じる。
 

 どうせその日の昼過ぎに急遽要請された欠員補充の応援現場だ。
 休みの予定だったので着信を無視していたら、メールで稼げるうちに稼いどけと。
 コロナによる影響から、現場の激減が予想され。
 そこへきてがつがつしないあたくしだ。
 個人的な経済状況を会社が慮ってくれたらしい。
 そこは、ありがたし。
 なのでそういう会社の厚意に免じて、若造の無礼を我慢してすます。
 むろん就業後の「 おつかれさまでした 」への返事もされず。
 ただ、その上司らしき年配の元請は、別だ。
 紳士だった。
 すれ違うたびに会釈をくれた。
 これも他の現場あるある。
 役職の高い人ほどあたしらに挨拶をちゃんとしてくれるという現場が、ある。
 年齢と経験を重ねてそうなっていくものなのか。
 あるいは、人によるのか。
 社風なのか。
 よくわからんが。
 お勉強になった。
 ありがたし。



 能面、無反応のまま年取りたくはないよな。





 闇生