壁の言の葉

unlucky hero your key

好き。

 現場での最近の雑談ネタは、自分の前職がらみとしてのシモネタだ。
 しかし各人がエロというものを平面的にとらえているから、付き合うのが面倒くさいのであーる。
 あたしゃそれらを扱っていた店舗に勤務していたというだけの話なのだが、そのことわりを何度入れても面白がっていじられる。
 まあ、ど素人相手にエロ講義をくそまじめに展開するのもアレだし、面倒くさいのであたしゃいじらせておくし、のってやるし、ボケてもやるし、またそれをきちんと踏まえたうえであくまで言葉のキャッチボールとして愉しんでくれる人もいるのだが。その空気を最年長の某さんだけが読めず、のれず、どこぞで手に入れたSODのカタログなんぞを持参して、得意げに手渡してくるのだ。


「持って来てやったぞ」と。


 嗚呼、めんどくせえ。
 げんなりである。
 あのね、
 それはね、
 総合格闘技専門グッズ店に勤めていた人に日本プロ野球の話題を振っているようなものでね。
「スポーツ好きなんだろ?」
 的な。
「好きじゃなきゃそんな仕事できねえはずだもん。少なくとも嫌いじゃないよね」
 的な。


 そういや派遣で作業補助としてついたシールド(トンネル)工事現場でもそういうことがあった。
 警備員としてついていたのではなかったので、腰にはラチェット、バンセンカッターなどの道具類をそろえた安全帯。それに作業着、安全靴というかっこうで日々闇の泥濘と格闘していたのであるが。
 あるとき、大型のトレーラーでの搬出が予定された。
 そのとき上司はこうのたまったのである。


「あしたは久しぶりに誘導させてやっからよ。ずっとオーライオーライやれなくてたまってんだろ?」


 あほなのですかと。
 ユーワナニシニニッポンエ? と。
 その現場は警備員として契約しているわけではないのだ。
 それで万が一なにか事故ったとしたら、問題はこじれにこじれるぞ。
 関係するお役所は容赦なくつっこんでくるぞ。
 なんか小馬鹿にされた気にもなったので、


「あ。誘導は作業とは別料金ですけど、いいですか?」


 ふたりぶん、いただきやす。
 と、のたまって相手を黙らせた。
 それって農家の人に対して「うちの庭にタダで畑作らせてやっから」と言ってるようなもんで。
 耕したりすんの好きなんだろ? と。
 好きなだけ耕していいよ、と。
 嫌いだったらやってないはずじゃん、と。
 その考えはあれだ、さながら節操無くのびちらかされてきたピザ生地のように、恥も外聞も投げっぱなしに、びろんびろんに尊大にさせてしまったがゆえに透けるほど薄っぺらになってしもーた哀しき洞察力によっている。
 てことはよ、あんたは偶然出くわしたAV女優だとか風俗の女性を相手に、おもむろにパンツさげてさ……。
 いや、
 この喩えはやめとこ。


 好きなんだろ? てか。


 街で遭遇したお笑い芸人をつかまえて一発ギャグを強制するノリもそれと似てるなあ。
 ましてやあたしゃただの売り子さんだっただけだからね。






 ☾☀闇生☆☽
 そういや、実家に帰省したときのこと、
 パソコンとネット環境が無いのをあたしが嘆くだろうと考えた父母が、押入れの奥で死んでいたワープロを引っ張り出して用意してくれていたことがあった。
「ほら。これでここでもすきなだけかちゃかちゃできっぺ」
 なんか、なんか根本的に間違っているけれど、ありがたし。