どうせ雨ならばと、晴耕雨読よろしく部屋籠りを愉しんでいる週末である。
ところで、
長期の建築現場には仮設の詰所や事務所というものがつきもので。
まずはその設置や仮囲い、電気、水道、トイレ、電話などの仮設からはじめていく。
大概の場合、そのプレハブ小屋が立つやいなやに通りすがりの仕出し屋さんが見つけ、挨拶にあらわれる。
そしてその月の日替わり定食の献立表を詰所に置いて行くものだ。
それで職人たちの昼飯の注文が定着するならば、商売としておいしいはずだし、職人にとっても便利なのであーる。
けれど今の現場は、事務所が立って一週間にもなろうというのに一向に弁当屋が顔をださない。
たまたま近所に弁当屋のない地域なのだろうとあきらめてもいたのだが、あるとき、通りをはさんだ向かいの会社から仕出し屋と思しきおねーさんが出てくるではないの。
昼下がりで。抱えていた弁当箱をいそいそと軽バンに積み込んでいる。
我らが仮設事務所は目の前だ。
しかもこっちゃメットの警備服だ。
もお、じぃーっと見つめたったよ。
さすがに気付いてメニューを置きにくるにちがいないと期待していたのだが。
用を終えるや慣れたハンドルさばきで方向転換をし、おねーさん、ぶいいいいんと走り去ってしまった。
おいおい。
んで、監督の命を受け、仕方なく翌日は昼前から張ることにしたのであるが。
これがまた、はええのなんのって。
おねーさん走りっぱなしだ。
しかも、追いついて声をかけてみたもののメニューを持ち歩いていないというのだな。
無論、あとで届けてくれることにはなったさ。
んが、あたしゃ首を傾げてしまったよ。
仮に、言われた仕事のみをこなすだけのバイト配達員であったにせよだ、店主は彼らにメニューを携帯させないのかね。
配達中、新たにプレハブ事務所がたったら置いてくるようにと、しないのかね。
営業、不熱心だなあと。
この間、通りすがりの中華屋の出前持ちをつかまえて同じようにメニューをせがんでみたのだが、こっちもメニューを携帯していなかった。
なんなんだよ。
もったいない。
さらに言えば、仕出し屋の軽バンには電話番号も社名も書かれていなかった。
書かれてあれば呼びとめるまでもなく注文したのに。
なにか考えがあるのだろうか。
小売りの注文がうるさいから、とかか?
ともかく、こうしてめでたく昼飯の配達にありつけた現場であったのだが、日頃から不思議に思っていることが、もひとつある。
それは弁当の料金について。
工事現場の仕出し弁当というものは、ワンコインが相場である。
それをこえると、職人たちはそっぽを向く。
だからこの仕出し屋もそうだろうと、届いたメニューをあらためたのだが、なんと値段が明示されていないではないか。
電話番号はあるものの、いくらだかわからない。
問い合わせてみてやっと知ったのだが、驚くのは、それにいくらか元請けが上乗せして職人たちから徴収しているということ。
職人に聞けば、そんなことは珍しくないという。
慣例にさえなっているという。
それだからか。メニューに金額を書かないのは。
現場まかせにできるという心配り。
そうであったとしても職人にとって安いことには違いないのだから、声高に文句を言う奴もいない。
陰でなら、みんな不平を言っているが……。
けれど、腑に落ちない。
断じて、落ちない。
元請けあっての仕出し屋なのか?
つまり、月締め請求制のための信用として、元請けが仲介するのが必須条件なのか。
元請けを通さずに職人たちでまとめて注文して、その都度支払うようにすれば、正規の値段でいただけるのか?
まあ、いい。
慣例という言葉であきらめられたなら、もともと自炊弁当で通勤するあたしになどに口をはさめるわけもない。
ゼネコンの大きい現場では、現場敷地内に鉄板をひいて、そこに職人たちの通勤車をとめさせて駐車料金を徴収しているところもあるくらいだ。
あれも慣例か?
近所のコインパーキングよりは、かろうじて安い料金設定にしてさ。
それを職長会の会費にあてていると聞いたが、どう考えても儲けすぎている。
鉄板敷いただけで、年間いくら売り上げてるんだよ。
そもそも、あんたらの土地じゃないよね。
ひとんちだよね。
会費の収支、内訳をちゃんと公開しているのだろうか。
領収書はちゃんと切ってるのだろうか。
○○建設 現場内駐車料金として、とかなんとかの但し書きで。
それ以前に、弁当代・駐車料金もふくめて、現場内設置の自動販売機の売り上げなどの申告的な処理は、正しくされているのだろうか。
どうなんすか。
☾☀闇生☆☽