壁の言の葉

unlucky hero your key

 現場に出勤。
 施工道路の、国道との接続部界隈に工事告知ビラの投函。
 それから同じくその交差点の消防署から北へ200世帯ほど、濁り水の告知ポスティング。
 工事に影響のある家をあらかじめ監督が配管図にマーキングしてくれており、それを見ながらの作業。
 てくてくてくてく。
 マンションは集合ポストではなく、各戸のドアポストに投函する。
 集合ポストはチラシであふれており、毎日は確認しない人が少なくないからなのだ。
 だもんで、階段もけっこうのぼった。
 11時に完了。
 その後、12時半から監督の車で別の現場へ連行される。
 S監督が担当する現場である。
 こちらも工事告知のビラを工事にかかわる小学校付近に投函。
 それから代理人の腕章をつけさせられ、この日の施工個所に立たされる。
 S監督が月曜の段取りで現場を離れるため、役所の手前、その代理が居なくてはならないのだろう。
 職人たち、警備員たちが遠巻きに様子をうかがっているのがわかる。
 これぞ派遣のつらさである。 
 作業着は元請けと同じ。
 けどいままで見たことねえぞ、あんな奴。
 誰だあれ。ハケンか?
 てな無言のプレッシャー。
 実際の態度としては、当たりさわりのないように無視している感じ。
 距離も遠い。
 かつてケービとしてついた橋の点検業者にいたハケン君を思い出す。
 ただ突っ立って見ているだけで、陰であたしらも冗談のタネにしたものである。


 ぼくはカカシ。


 15時終了。
 S監督はやりずらい。
 なにより暗い。
 しかも、言動や態度からみるに、警備や我々派遣をあからさまに見下している。 
 そういう古い古い風潮のなかで働いてきて、そしてそれがいまだに抜けないのだろう。
 この現場の警備会社は流行りの安い警備会社がついていたが、規制の保安材の設置も片付けもすべて彼らがやらされていた。
 きけば工事告知のビラの配布も、ふだんは彼らがやらされているという。
 バブルの頃によくあった「これで全員の飲みもんかってこい。自分も好きなの飲んでいいから」と咥えタバコのあごで警備員をこき使う、あの風情が染みついている。
 なるほど、保安や規制に専門家はいらないのである。
 身なりがきたなかろうが、片交がぐだぐだだろうが、誘導動作がえらそーだろうが、んなこたいいのだ。
 安くて、事故さえがなけれぱ。
 警備なんてものは本格的な専門店ではなく、あれもこれも揃う『間に合わせ』でいい。
 つまりコンビニでいいのだろう。


 電車で帰宅。
 今日付けで今回の監督補助現場は終了。
 土曜から自分がつく現場について会社に問い合わせる。
 新宿と、虎ノ門と、
 出してくる現場がとれも都心ばかりなので、自転車でいける範囲で再考を願った。
 その結果が神田だ。
 さらに遠くなる。
 どこまでアホちんなのか、配置のニンゲンは。
 現場の把握もまったくしていないし、各隊員がどのあたりに住み、移動手段が何なのかすらつかめていない。
 勤務内容はいいとして、その距離はなんだろう。
 問い合わせると、同僚が現場に乗りつける規制車に乗せて行ってもらえという。
 その先輩ドライバーYさんにメールで確認するが、返事を待つ間に、諦めることにする。
 教えられたメンツを思ったのだ。
 知っているだけでもアシの無い隊員が自分を含めて3人もいる。
 規制車は2tで、ドライバーを含めて3人が定員なのである。
 その日のメンバーのなかで一番のぺえぺえである自分が、誰かを押しのけて規制車に乗せて行ってもらうわけにはいくまい。
 そのぶん、諦観して電車で現場入りしようとしている一人を、規制車がピックアップしていけたなら。
 22時開始の現場。
 終了は終電後なのか、どうなのか。
 ともかく自転車で頑張るか、あきらめて電車で行って始発を待つか。





 やはり原付が必要だ。



 買うのか、あたしは。
 買っちゃうのか、原付を。


 ☾☀闇生☆☽