壁の言の葉

unlucky hero your key


 結局は社員の皆さんは二日酔い。事務所でダウン。
 あたくし派遣風情がひとり、朝礼その他作業をこなして一日を終えた。
 なるほどなあ、と。
 こんなんでも許される世界があるのだなあと。
 小売りにはできないよね。
 定刻に店を開けなきゃならんし。
 それが信用の初歩の初歩、大前提だから、台風が来ようが電車が遅れようが、それをも読んで前夜や早朝に動きはじめないと。
 翌朝が大雪と判れば店に泊るし。
 加減をはかりながら飲むのもまたそのひとつで。
 当日になって「体調わるいんで休みます」なんてのも、通じない。
 何に対して通じないかというと、お客さんだ。
 お客様は神様です、の『神』は造物主、唯一絶対神の神ではなく、動物神や自然神、天変地異の神、あるいは座敷わらしや貧乏神のようなもの。気まぐれで天の邪鬼でこちらの都合や善意悪意にはまるで無頓着な神。八百万の神々の神である。
 ようするに大衆だ。
 理屈や道理では動かず、あくまで気分が左右する。
 決まった時刻に店が開いてたり、開いてなかったりして、そこにどんな理由があろうがお客さんには関係ない。情状酌量はしてくれないし、されたらされたでアウトだろう。
 盆暮れ正月ゴールデンウイーク土日祝祭日に出るのを店員が当然のこととして身にしみこませるのも、そういうわけで。
 ま。ともかくあたまぐるんぐるんしながら、こなしましたとさ。
 はい。
 あたしだけ一次会で抜けたから、それで済んだという次第。
 はい。
 んで、
 こうなるとわかっていても彼らは飲んじゃったという次第。
 案の定「やっちゃった」と朝になって悔んでみせるのです。
 んが、実のところ悔んでない。
 談志は確かこんな風に言ったと思う。酒はニンゲンのダメっぷりを確認するために飲むのだと。
 翌日後悔するためにあるのだと。
 そこへいくと後悔するほどまで飲めないあたしは、やっぱちょっとさびしいんだわ。
 だから毎日ほどほどに飲んじゃう。
 どんなに体調を崩そうが、決まった時間に起きてしまう。
 闇生さんが居てくれて助かった、とのお言葉をいただきはした。
 いただきはしたのだが、、翌日に交わされる彼ら『戦友』の泥酔自慢を聞くに、あたくしみたいのはニンゲンとして、つまらんと思うのであーる。
 とかく『飲みにケーション』は時代錯誤として煙たがられる。
 あたしも忌避してきた。
 時間の無駄でしかない。
 しかしながらこうも思う。その翌日の彼らを見るに、どこか秘密を分かち合ったような不思議な親密感が確実に生まれている。
 ましてやただの『どんちゃん』ではなく、世代も会社も価値観も異なる関係であるからこそ、その分野ごとのこぼれ話なども聞けるわけであり……。
 ははん、なるほどなと。
 狎れ合ったタメと飲むのも大切だが、世代や性別や分野の違う人と飲むことには意味があるなあ、と。
 










 そういう理屈でとなりのママ会に混ぜてもらうわけには、いかないのでしょうな。
 やっぱ。
 






 ☾☀闇生☆☽