壁の言の葉

unlucky hero your key

『日本の兄弟』感想。

日本の兄弟

 松本大洋著『日本の兄弟』マガジンハウス



 詩人ではないかと。
 この人。


 好きな漫画やその作家を思い起こそうとするとき、なぜかその名前が浮かばない。
 代表作がかつてアニメ化されてはいるが、決してエンタメ系とは呼べないし。
 わかりやすく言えばゲーム化とは無縁な人たち、諸星大二郎つげ義春といった名前を列挙していっても、この名前にはなかなか思い至らない。
 誰か挙げ忘れている。
 そのオリジナリティを「孤高の」といってしまえばそれまでだ。
 けれど、
 思うに彼は漫画でしか表せない詩を、書いているのではないのか。
 起承転結やどんでん返し、物語よりも、詩になる一瞬が描きたいのだ。
 だもんでこちらの脳みそも彼の作品の記憶を、漫画とは違う抽斗に収納してしまうわけ。
 とりわけ今作は短編集でもあって、オチだとか、文脈だとか、設定だとかいった読者に揉み手でへりくだるストーリー構造から遠く距離を置いている。


 なんせ詩だもんで。


 冒頭の三連作「何も始まらなかった一日の終わりに」に描かれる、独りに満ち足りている人たち。 
 裸の狂人。
 穴を掘る双子。
 インテリヤクザ。……等々。
 彼らもみな詩人なのである。
 それはある意味で狂気であり。
 ゆえに彼らは孤高であり。
 場合によっては疎外され、孤立している場合もあるが、往々にして独りに満ち足りている。
 独りとして繋がっている。
 さながら、いわゆる漫画界という世界のなかの松本大洋その人のように。






 追記。


 ああ、
 エンタメ性の高いものとしてピンポンの実写版がありましたね。
 夏木マリが設定より美人過ぎるのと、竹中直人がおなじくかっこよすぎるのが気になったけれど。
 あれは樹木希林イッセー尾形なんです。あたくし的には。



 ☾☀闇生☆☽