壁の言の葉

unlucky hero your key

 「吟じます」


 ちょっとまえ、
 エロ詩吟なるものがはやった。
 いや、ひょっとすると、いまでも充分に現役なネタなのかもしれない。
 そのへんのとこは知らない。
 ともかく、
 芸人が詩吟にのせて下ネタをかますという、そんなことになっていたと思う。
 日常での女のちょっとしたふるまいを男が誇大妄想的に、
 つまりは強引にでもエロエロに解釈して、
 挙句、そんな「エロい」彼女なのだからモノにできるのでは、と。
 可笑しくも切実なオスのサカリ具合を笑おうというものだった。


 たとえば、こんなのがあったと思う。
 鍋パーティーをしていて、
 女の子が具のウインナーを箸でつかもうとして、
 つるつる滑っているのをみるうちに、なんだか今日イケそうな気が…。
 とまあ、そんなとこだ。


 いや、言いたいのはこのことじゃない。
 断じて。


 先日ラジオを聞いていたら、某女性漫才コンビが出演していて。
 こう見えても結構下ネタ好きなんですよ、と司会がコンビの片方に、ふった。
 で、
 そんな流れで彼女は「エロ詩吟なら、もっと過激で面白いのができる」と。
 あろうことか、のたまったのだな。
 その瞬間にあたしゃ思ったのだ。「これはやっちまうパターンだぞ」と。
 案の定、ひと言目にこうきたのだ。


「なめてもらってて〜〜〜〜えええ〜〜…」


 ほらね、やっちまった。
 笑いの「緊張と緩和」の法則に照らし合わせれば、まず「エロ詩吟」と題している以上は、エロから遠いところから始めるべきだろうに。
 仮に「国会中継で〜〜〜」と始めたとすれば、エロいオチへの引力が強まるはず。
 遠ければ遠いほど、効き目がある。 
 なのに、彼女のそれはひと言目から、オチているのだ。
 てかシモなのだ。
 となれば、ポテンシャルがゆるゆるであるからして、オチでの落差を自らふいにしてしまっているようなもの。
 続けて彼女はこう吟じた。


「だんだんテンションが上がってきたので〜〜」
「お返しをしようと相手のをまさぐったら〜〜」


 ね。
 シモの連打であるからして、このさきは「あるある」の共感にしか行けないのね。
 下ネタ、というよりは、これは単にシモの話であって、ネタに昇華されていない。
 これは厄介だなと。
 他人事じゃないぞと。
 まず「こんな顔して実は下ネタが」というフリ。
 女で下ネタ使い、というだけで笑う。
 というか、笑わないとお固い奴と思われかねないので、シモをのたまえばともかくも「あるある」で笑うことになる。


 これほど哀しいことはない。


 ときどきいる。
 酔った勢いだかなんだかで、「わたしは下ネタ好きだ」と。
 で、聞いてみると、童謡をエロ替え歌にして歌う。
 名詞をチ○ポだマ○コだのに変えて、自分でウケつつやらかすのだが。
 あたしゃ考え込んでしまうのだな。
 はて、なんだろうと。
 とどのつまりが、ネタではないのだなこれは。
 いわゆる淫語の連発。
 エロDVD屋として、そんなのにうずもれるようにして過ごしてきたので、それでは別になんとも思わない。
 だからなんなんだと。
 けれど、むっつりしていると、お固いと思われると。
 そこ。
 そこが厄介なのだよ。
 エロに、芸を、甘やかされる瞬間である。
 


 そう、
 中島らもの小説『寝ずの番』では、終盤に下ネタの真剣勝負が繰り広げられます。
 



 ぜひ。




 ☾☀闇生☆☽