壁の言の葉

unlucky hero your key

 
 だらだらと書く。


 転職活動の面接に備えて、スーツを引っ張り出した。
 ふた昔前にオーダーメイドしたものだ。
 いまのこの失業の危機では、少しでも出費を控えたい。
 ましてや、次の就職先が、スーツ族とは限らない。
 どちらかというと、私服か、制服か、作業着かといったところだろう。
 でも、まあ、かろうじて経験している営業職復帰も考えると、それらの装備がまったくないのは心もとない。
 といって、これを機にわざわざ新調しても、面接すらきまらなかったらコトである。
 むろん、急に決まったときに準備がなくても話にならないわけで。


 というわけで、押入れをごそごそと。


 サイズはまあ、どうにか。
 ちょっちウエストがきついが、面接くらいはこなせるだろう。
 問題は、型だ。
 スーツに縁遠い生活をしてきたので、まったく当世のスタイルというものを知らぬ。
 モテスーツなんぞは、べつにいいが。
 年齢的に、これでいいのか、どうなのか。
 ええい、ままよと開き直ることにする。
 営業は営業で、それほどいい思い出もないのだし。
 まあ、なんであれ、なるようになるだろう。
 クリーニングに出しておく。


 ところで、
 ここにきてようやく空腹を覚えるようになってきた。
 けれど、それが食欲にリンクしないのよ。
 それがもどかしい。
 頭で考えながら飯を選んでいるのだから、情けないって。
 

 本来、飯って、楽しいものじゃないんすか。
 ちがうんすか。


 そんなこんなで、
 松屋で、鶏の照り焼きナントカ定食を食べてみた。
 すれば、そういうのをがつがつ掻きこんで「ごっつあんっ」と仕事にいく、熱い奴になれるんじゃねーかって。
 実は、直前までトンコツラーメン屋のまえで悩んでいたのが、どう考えても、残すだろうと。
 ライターを近づけたら炎上すんじゃねーかってぐらい、オイリーなのだ。
 そんな不甲斐ないあたしを、鬼の亭主はどう思うだろうか。
 なんせカウンターには手書きででかでかとこうある。
 

 「麺は残しても、スープは全部飲んで」


 初めての人が見たら、なんと高飛車なと思うが、なるほど、たしかにめちゃくちゃ旨いのだ。
 言われずとも、完食してしまうレベルなのだ。あれは。
 けれど、いまこの状況では、プレッシャーだわああ。
 ともかく松屋のナントカ定食で、済ませた。
 あたしの人生の中で遭遇したどの店員さんよりも、もっともほがらかで、なおかつ一番声の小さな店員(女)さんに驚嘆しつつ、時間をかけて平らげたった。
 一瞬、うっかりヘッドホンをしたままだったのかと、うろたえたほどの、接客だ。
 
 
 霊かと。


 つれてきちゃったかと。
 あの調子でもし、オプションの選択を問われていたとしたら、どうなっていたのだろう。
 でも、いいのだ。
 タンポポの綿毛のように、ほんわりしていから。
 人間、ほんわりしてるなら、いいじゃないか。


 さて、どうしようか。
 求職は、待つ時間ばかりで、他のことに集中できない。
 ましてや、目前の閉店にむけての日々でもある。


 また能もなく、街をぶらぶらした。
 部屋にいるのがこわいのよ。


 だからって、やっぱりぶらぶらは、ぶらぶらで終わる。
 ただ本を読むために電車に乗ったようなものだ。
 そうそう、絶望の底では音楽すら届かないのね。
 何もかもが怖いのだ。
 音も、
 飯も、
 映画もみんな、己が孤立を際立たせてくる。
 なぜといって、そのどれもこれもが仲間あって成り立っているしろものだもの。


 それが、時をおいて少しずつ耳に入るようになってきて。
 今は本も読めるようになってきたぞ。
 まずはおもしろエッセーからだが。
 

 ありがたし。


 感謝ついでに西荻窪へ足をむけた。
 元たまのランニングこと石川浩司プロデュースのレンタルボックス店に。
 そこは店内に設置された木箱を貸している。
 ちょうど学校のロッカーのように積み重なっていて。
 そこでアーティストが、おもいおもいに自分の作品を展示販売しているのだ。
 陶芸や、オブジェや、ポストカードや。
 ニットもの、アクセサリー、自作CD、本、漫画、イラスト……etc。


 プロデューサーがブロデューサーだから、どれもこれもがヘンテコで、そしてちょっとできそこないだったり。
 そのどーしよーもなく独創的で、なおかつあたたかいとこが癖になるんだ。
 最年少は小学校低学年の男の子だって。
 自作のポストカードが、ほほえましかったわ。
 どの箱も、なかに豆電球が照明になっていてね、夕暮れ時に行くと、これがまたきれい。
 だもんだから、手作りの創作パワーから元気をもらおうとしたのに、うっかりノスタルジーを嗅がされて。
 
 
 あぶない、あぶない。


 客と、店員のフレンドリーなやりとりもまた、オツと。
 作家さんがひとり、納品にきてました。
 あたしもひとつ、自作小説でも置いてもらおうかなと思ったのだが。
 文章だけのは、あそこではかすんじゃってね。弱いわあ。
 いや、そのまえに製本か。
 あの店なら、かえってガリ版印刷の小冊子でやったほうが、いい味を出しそうだ。
 それはそれで、見返りのない投資が要りますがね。
 今回は、何も買わずに引き返した。
「また来ま〜す」


 あのあたり、変で、ぬくもる店が多いですね。
 いい感じだ。
 帰りは帰りで、
 駅のホームで若いリーマンがケータイに、
「これっくらいのおっ、おべんっとばっこに♪」
 歌ってました。

 
 ホスト風の金髪逆毛の男が、
 ガニ股のヤンキーこぎで、
 電動機付きママチャリを飛ばしていました。
 
 

 日中とはうってかわって、風が冷たくなってきましたな。
 風がびょうびよう鳴っています。
 

 
 
 ☾☀闇生☆☽


 あ。
 今月、酒は一滴も口にしていないぞ。
 でかした、俺。
 と思っていたが、あまりに急激な変化なので、自分を疑っているとこ。