歩く。18

 甲州道中、第六回目。
 
 夜勤シフトの体内時計をもどして挑もうと、盆休み初日は安静にしていた闇生。
 お酒をいただく時間をずらしてみたり。
 飯食う時間を、日勤的にしてみたり。
 いろいろやったが、身体がつかれないので、思うように熟睡できなかった。
 未明から目が冴えちゃってね。
 もう一回眠っておこうと頑張ったが、ニンゲン頑張って眠れるものじゃない。
 潔くあきらめて電車に乗り込んだ。


 前回の終了地点、相模湖駅に着いたのが午前九時。

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相模湖駅前。


 20号をたどることものの数分でセブンイレブンが見えてくるが、その手前の脇道を右斜めに入る。
 道沿いには与瀬宿の坂本本陣跡と明治帝御小休所の石碑が。

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明治帝御小休所跡。

 そのまま細い道を入っていくと家の前で歯を磨いている耳ピアスの青年に会釈されるた。
 あ、ども。
 その先で中央道に阻まれるが、その高架をくぐるように階段をおりた。


 実はこの道中を歩くあたって先人の記したデータをふたつ参考にしている。
 ひとつは、八木牧夫著『ちゃんと歩ける甲州街道』(山と渓谷社)。
 もうひとつは街道ウォーキングを記録している個人サイト『人力』。
 ふたつには小さなところでルートの相違点があって、その違いを見比べたりしながら、旅をつづけている。
 それがおもしろい。
 でだ、この高架をくぐった先のルートが、前者と後者でちがっていた。
 この先に難所がひかえるので、ここは重要なポイントだと思う。


 前者は高架手前の階段をおりて20号に合流。
 そしてカーブに店を構える『ラーメンセンター』の手前の山道(土の道)を入る。
 坂をのぼっていくその途中で沢におりる階段上の崖がある。
 それをおりると渓流に丸木を組んだ橋が架けられてある。
 橋をわたって、崖を這い上がると獣道のような落葉を踏みならした土の道に突き当たる。
 土の道だが、水道の空気弁の鉄蓋などがある。
 この道を左にたどってゆくと、ラーメンセンターの背後にそびえる崖の上にでる。
 そこが『与瀬一里塚跡』だ。


 しかし後者は、高架手前の階段をおりるが、20号には合流せず、合流手前で私道ような階段をあがって高架の向こうの古道にでる。
 古道をたどると、道は林野庁が管理する通行止めに遮られる。
 そこで『Λ』字に左折して坂をおりていく。
 この坂が、前者が下からあがってきた山道。
 後者はGoogle Mapに直に赤線でルートを書き込んでおり、このあたりの入り組んだ道のようすは、おそらく省略しているのだろう。
 赤線はラーメンセンターの後ろを通って『与瀬一里塚』に通じるように記されてあるのだが、これは丸太の橋ルートを示しているのだろう。

 
 で、あたしの場合。
 後者式に、高架をくぐって20号に合流せずに崖の上の古道に出ようと考えていた。
 たしかに階段をおりて、高架をくぐった先にすぐ階段があるのだが、私道にしか見えなかった。
 どうみても個人邸の裏口につうじる私道。
 なのでためらって引き返し、20号に出てラーメンセンターの手前の山道をあがる、という前者式にあらためた。


 ところが、ここで勘違いがおこる。
 山道をあがっていくと、道は林野庁の通行止めバリケードに阻まれる。

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道標 貝沢。
 

 前者の本では沢への下り口には道標『貝沢橋』があるという。上記の道標とはべつに『貝沢』に『橋』がついている。
 引き返していくと柵の切れ目があって、そこに腐食した木柱がたっていて、何かの目印のように赤いビニールテープが巻かれてあった。


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貝沢橋のたもとに下りる道。


 そこにのびている獣道は、落葉で埋もれかけているが、階段らしき段差もある。
 となれば、この朽ちた木柱は道標だったのかもしれない。
 しかしこれがまた坂というよりは、崖といいたい傾斜角度である。
 樹木や笹につかまりながら、濡れた斜面をおりた。
 これが貝沢橋なのか?


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貝沢橋?


 写真とるあいだにも蚊が群れてくる。
 大丈夫なのか? のっかっても。


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貝沢橋!


 ためしに足をのせてぐんと押してみた。
 橋全体が、ゆれる。
 どこが腐っていてもおかしくないこの風情。
 どうですか。
 あなたなら、どうしますか?
 あたしは川を歩きました。
 岩がごろごろしてて、それも崩れそうなのだが、歩いて渡りました。 
 水深は、くるぶしくらいだろうか。
 岩を伝って飛び石式に対岸へ。
 と、これまた崖なのである。
 笹をつかみ、露出した木の根をつかみ、ぬれた斜面をクライミング


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貝沢橋 西岸の道。


 這い上がったそこにまた獣道のごとき道が。
 これをつたって、ラーメンセンターの背後にそびえる崖の上に出た。
 

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与瀬一里塚跡。


 日本橋から十六里をしめす一里塚。
 勘違いはここからだ。
 一里塚跡の横には農道のような道が北西にのびており、いまから考えるとそれが古道で、そのまま進めばよかった。
 しかし生来の方向音痴が、それは違うのではないかと思わせる。
 一里塚からすぐに崖をおりて20号に合流するものだと、すっかり思い込んでいたのである。なぜだろう。
 簡単に言えば、ラーメンセンターの東側山道から入り、貝沢橋をわたって一里塚に出、そこらか『Λ』型に崖をおりてラーメンセンターの西側に出る、と。
 地図で確認すれば明白なのだが、たしかに『Λ』型に道が記される。
 この文字の右の傾斜が『人力』の選んだ古道だとすれば。
 左の傾斜がラーメンセンター手前の山道。
 ラーメンセンターを『。』で表現すれば、道とラーメンセンターの位置関係は『。Λ』となっている。
 これをあたしは『Λ』のどまんなかにラーメンセンター在り、と思い込んでしまったのである。
 実際、一里塚から斜面を見下ろすと、だれかが歩いたあとがあるような。ないような。


 下りねば。


 意を決して崖をおりはじめた。
 あほである。
 つかまり立ちでなければ下りるも上るもできないような崖を行かせたのは、つい先ほどの貝沢橋の難所の記憶が生々しかったからだ。
 このあたりは道なき道を行くのが作法なのだと。
 10メートルほど下って、思い直した。
 こんなの道じゃない。
 何かを間違えている。
 笹をつかみつかみ崖上にもどった。
 うっかり木をつかむと、腐っていたりして、あわや転落事故になりかねない。
 そんなんでお亡くなりになったら、なんであんなところに、と謎を残してしまうに違いない。
 鵯越義経であっても、こんなのは無理無理。
 一里塚横の農道をたどった。
 たどりつつ、ガイドブックを見直して気づいたのである。自分の過ちに。
 あぶねあぶね。


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与瀬の一里塚ちかくから相模湖をのぞむ。
 

 結局、このくだりに関しては『人力』のほうが正しいみたい。
 林野庁の通行止めに建つ道標と今熊大権現の先碑は、ガイドブックのルートからは外れてしまうのだ。
 ということは、中央道の高架をくぐって古道にもどる階段は、私道ではないのか?



 つづく。




 ☾☀闇生★☽