ハナ・ハフマルバフ監督作『子供の情景岩波ホールにて


 製作がイランとフランスとある。
 『チャドルと生きる』といい『風の絨毯』といい、イラン映画の質の高さは、ハリウッドに毒されていない時間感覚にその秘訣があると思う。
 ありていに行ってしまえば『間』だ。
 これは別にハリウッド批判で言っているのではない。
 あのエンタメのノリというのはあくまでご当地ものであるからして、よそものが真似ると見るも惨憺たるありさまになってしまうという、そういうことね。
 あるでしょ、SF時代劇みたいなスタイリッシュなノリを目指して失笑を買ってしまうようなの。
 付け鼻でミュージカルやってるのとあまり変わりがない。


 ま、それはいい。
 それはいい。


 『子供の情景』である。
 ポスターの少女と、泥まみれの少年の顔に一目ぼれして、観ようと決めた。
 たとえばチャン・イーモウの小品や、このイラン映画に顕著なのだが。
 あるいはベトナムの『青いパパイヤの香り』もそう。
 子役がね、劇団ずれした表情をしていないのだ。
 そこが何よりうれしいのだな。


 物語の出だしはこんな感じだ。
 舞台はアフガニスタン
 あのバーミヤンの巨大石仏の前。
 ご存じのようにあの石仏はタリバンによって破壊された。
 その衝撃の爆破映像から、この映画は始まる。
 地元の子供たちにとっては、その石仏の瓦礫が遊び場だ。
 少年たちは屈託もなく日々タリバンごっこに熱中している。
 この物語の主人公バクタイは6歳の女の子。
 貧しさのため、母の留守のあいだは妹の子守をしている。
 けれど、隣の男の子アッバスが教わってきたというお話に惹かれ、自分も学校に行きたくなってしまう。
 といっても学校に行くにはノートとえんぴつが必要で。
 バクタイはノートを買うために小さな冒険を始めるのだった。


 少女の愛らしさに客席からは頻繁に笑いが起こっていた。
 それは、映画に対する監督の真摯な姿勢がひきだした物だ。
 畏れいった。
 父はイラン映画の巨匠だという。
 して、これはその娘による長編デビュー作。
 そのありったけの真摯は、若さゆえとも言えるかもしれない。
 それは蒼さといってもいい。
 なんせ撮影時は十九歳だというのだから。

 
 黒澤明がかつて言ったのだ。
 自分の身の回りや現状に対して真摯に問い続けたものは、世界に通じると。
 たしかスパイク・リー作品を評しての発言だったと思う。
 スパイク・リーにとってはアメリカ国内の人種問題が切実なる現状で。
 彼の傑作は、どれもそれを問いつづけたものだった。
 そして、愚にもつかない刑事ものなどをとるうちに、普通の人になってしまった。


 そこへ行くと今作の監督ハナ・マフマルバフにとっては、イスラム原理主義と仏教の衝突点としてのバーミヤンが、ほかならぬ現実問題なのだろう。
 紛れもなく、アフガンのお隣に住むイラン女性としての視点が、この映画である。
 ちなみに原題は、父の著作からとったものだそうで。
 意訳すれば、仏陀は目の前の現実的な悲劇をなにひとつ救済できないことを恥じて、自ら滅んだ。
 そんな感じだったと思う。
 上映前に、岩波ホールの代表が説明していました。
 順次、国内を回っていくと思うので、お近くで催されるようなら、あなたもどうぞ。
 こういう単館的な映画って、劇場を逃すと、忘れられがちでしょ。
 CMが少ないですから。
 DVD化なんて話も、伝わってこない。
 テレビの放映なんか、うっかりするし。
 だから、そこんとこ、どうぞよろしくと。
 少なくとも身銭を切ったぶんは、なにかしらの波紋を胸に得るでことしょう。


 小品ですが、
 愛らしく、
 そして切実ですよと。


 ただーーーーしっ。
 一点だけ、注文があるのだ。
 あのね、
 劇場の字幕って右側に白い字で縦書きですわな。
 して、
 その背景が曇天だったり、白い壁だったりすると、読みにくくなったりしますわな。
 この映画、あのアフガンのカフェオレ色の大地が舞台なのだ。
 だもんで字幕が背景に溶け込んでしまうシーンが、やけに多いの。
 たしかに、子供どうしのやりとりだから、字幕がなくても理解できます。
 正直そうです。
 けれど、
 けれどね、
 衝撃のラストのあの胸に残るセリフから推し量ると、其処彼処に、いい言葉があるはずなんですわ。

 
 上映前に、その件についてアナウンスが流れる。
 ケータイの電源を切って云々と一緒にね。
 でもね、
 これってどうにかならんもんなのかい。
 そういうときだけ黒字にするとか。
 だいたい、字幕を付けるまえにわかりそうなものでしょ。
 画面の右サイドの事情くらい。
 観てから買ってきたんだろうし。

 
 そこだけが残念だったな。


 

 ☾☀闇生☆☽

 
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 追伸。
 ところで、作家の上坂冬子さんが亡くなられた。
 日本の女の強さを体現する気骨の人だったと思う。
 真の意味での常識人で、
 それがゆえにフットワークは軽く、強く。
 病を受け入れて、
 死に支度とばかりに家を売って、
 最後まで毅然とそれを雑誌(SAPIO)に報告しておられた。
 

 ご冥福をお祈りします。