壁の言の葉

unlucky hero your key

『ザ・バンク 堕ちた巨像』感想。

ザ・バンク 堕ちた巨像


 トム・ティクヴァ監督・脚本『ザ・バンク 堕ちた巨像』DVDにて







 以下、ネタバレでいく。









 ストーリー自体は、これといって凝っているわけではない。
 世界的な巨大銀行が、国際的な兵器売買にからんでいるという。
 貧しい紛争国に渡りを付けてそこへ取り入り、巨額の貸しをつくるのが目的だと。
 そうすることでクーデター後の利権を、ひいては主導権を握ろうというのだ。
 んが、
 暗躍というものには犠牲がつきもので。
 次々と闇の中へと消されていく関係各位。
 その不正を糺そうと、インターポールの熱血漢が国境をまたにかけて活躍するお話であーる。



 お話自体は、やれインターポールだの検事局だの銀行の役職だのといった各組織の相関がめんどくさい。
 あたしゃそういうのを一番嫌う。
 そういうのは言葉や文章ではなくて映像的に処理せえと。
 あくまで映画的に表現してみせろと。駄々をこねくりまわすタチの悪さを持っている。
 んが、
 そこさえ注意しておけば、あとは手放しで、良質のサスペンス映画として愉しめるシロモノであった。
 まずは何をおいても主演のクライヴ・オーエンだ。



 この目力、
 ならぬ貌力―カオヂカラ―とでもいいたいこの顔ですな。
 デカイ。
 濃い。
 冗談通じない。
 それとロケ。
 事件が国境をこえてあっちゃこっちゃに移動するので、それぞれご当地の建築物が見ものである。
 かなりこだわったと思う。
 おそらくはそれとなくセット撮影とまぜているのだろうけれど、建物はどれもかなりの見ごたえ。
 色もいい。
 渋い。
 音楽も、いい。
 出しゃばらず、かつ引っ込み過ぎず。けどかっこいいという、さじ加減。
 カメラも音楽も監督自身が携わっているというから、それが功を奏したのだろう。
 このバランスの良さは、絵と音、双方に直接携わってこそかと思う。


 ナオミ・ワッツ
 綺麗な人ですが、どうでしょう。
 演技として、どうでしょう。
 いや、キャスティングとして、かな。
 なぜかしらあたしの頭の中では『羊たちの沈黙』のときのジョディ・フォスターと比べていました。
 すいません。
 女性を比べるなんて、いやらしいです。
 けど、
 もっちょっと仕事人間を感じさせたほうが、彼女の激務と役職的にはあうと思う。
 あんなさらさらヘアで、スタイル抜群で、てのはどうよ。
 キャラとしてあまりにつるんとしてて、なにもひっかからない。
 激務で既婚の女の実際とは別として、映画としてね。言ってます。
 いわゆる生活感といおうか。
 化粧っけなくて寝癖とかあったほうがいいんでないの?
 あるいは性格的にどこか欠点なり、破綻があったほうが。
 


 とはいえ、
 この映画、めずらしいほどに色恋沙汰が出てこない。
 どうせ捜査中にオーエンとワッツが、むふふなことになんでしょうと。
 中盤にちょこっとそういうの入れて中だるみを防ごうっていうんだろうと。
 いやん、だめ。今は捜査中よ。みたいな。
 夫と子供があるのに。みたいな。
 少なくともシャワーシーンくらいはやらかすんだろうと。
 そうふんでいたら肩すかし。
 そんな雰囲気など叱られますよ、というぐらいの緊迫感のまま、
 なんせあの貌力だ。
 おっさんマジだ。
 シモネタ通じねえ。
 ガチガチの硬派のまま存分にサスペンスを愉しませた手腕は、買っていい。
 だからこそ紅一点のナオミ・ワッツが浮いて見えたのかもしれません。
 評判の銃撃戦は、期待していいです。
 これも実は硬派の緊迫感があってこその、なのです。




 監督の出世作ラン・ローラ・ラン』が懐かしい。
 あの、まばゆいまばゆい若さのほとばしりから比べると、着実な成熟を感じさせてくれます。



 
 ☾☀闇生☆☽


 何をおいても邦題がいただけない。