壁の言の葉

unlucky hero your key


 多摩川のサイクリングコースを二時間。
 某社、工場敷地内工事でのケービへと。


 本日がケービ屋としての自分の仕事納めであるからして、ちょっと無理して自転車で行ってみた次第。
 サイクリング気分である。
 朝五時に出発して、真っ暗い土手の上をひたすらに。
 顔も手もつま先も凍えたが、下着は汗でぐっしょりだ。
 わかっちゃいたのです。
 いいんです。
 公道ではないので、ここぞとばかりにi-Podのマイフォルダ『aruke』を愉しむ。
 むしろ音楽と、冬の朝焼けを愉しむためにこのたびの無茶を敢行したといっていい。
 こんな暗いうちからでもウォーキングをしている人たちがいて。
 外灯のない道を、リアライトひとつ身に帯びずに歩いておられる方もある。
 正直あぶない。
 けれどみなさん、
 闇の中、孤独をたしなんでいるのだ。
 河辺のマンションが、各階の常夜灯をつかって壁面いっぱいに巨大な赤いハートを作っていた。


 工場自体はお休みだったようで。
 各ブロックに設けられた休憩所には、猫たちがいて。
 昼食時に持参した握り飯をひろげるとやつら、遠巻きにおねだりしてきた。
 両手をそろえてさ。
 お座りして、きょとん、と見つめてくる。
 首をかしげたりして。
 きっと工員たちに可愛がられているにちがいない。
 あさましさが無いもの。
 しかし、どうだろう。
 これからの正月休みをこいつらは、どうやって過ごすのだろう。
 歩いて縦断するだけで二十分以上もかかる巨大な敷地である。
 そこにぽつんと残されて。


 むしろのびのびと、我が物顔で遊んでいるのだろうか。


 さすがに帰路では膝が悲鳴をあげていたし、疲労感がただならないので普段やるにはあまりに無謀と。身にしみた一日でござった。
 闇生は、「自分へのご褒美」という言葉が嫌いだ。
 んが、
 さすがに身体がへこたれたので、アーモンドチョコレートの摂取を、赦した次第。
 ドクターペッパーを、赦した次第。
 昨日は内勤者たちの仕事納めで、一杯やりながらの応対という、それはそれはご満悦な風情であったわけであり。
 気難し屋も、ネクラさんもみな眉を開いて、ご機嫌でございと。
 だものいいんです。
 ドクターペッパーくらい。
 白い息を吐きながら、そこはあえてきーんと冷えたドクターペッパーよ。





 ☾☀闇生☆☽


 追記。
 生まれて初めてメルアドの交換を赤外線なんたらで交わす。
 たどたどしく、交わす。
 そこまで親しくねえだろって人なのだが。
 お人よしよろしく話に付き合っていたら、流れでそうなってしまったのだ。
 どうやらマルチに勧誘したいらしく。
 やんわりといなし続けていたら、こうなったと。
 彼らの常で、
 自分のプレゼンでは心もとないので、説明会だか勉強会だかに誘って、集団心理、同調圧力で落としちまおうという、ある種の『善意』からの行動をむねとする。
 モノの良し悪しは、ひとまず置こうか。
 善意を発動せずにはおられぬくらいだ。きっといいモノなのにちがいない。
 けどな、
 まず自分のことばかり喋っていることに、気づこう。
 何年も顔を合わせているのにいまだに知らんだろ。あたしが何を聴き、何を観、何を苦手とし、愉しんで、どう感じて過ごしているのか。
 たくさん喋っている印象でも、それ、全部あなた発信の話題だけだから。
 こちとら孤独をこじらせて長いのだ。
 おいそれと他人さまに興味をもたれるとは思ってやしない。
 自分にそこまでの価値もない。
 他者からのコンタクトは、ひとまずは疑ってしまう。
 そういうもんだろ?