壁の言の葉

unlucky hero your key

 出勤してから、気づいたのである。
 今夜の、
 てか、現在生中継されているはずの、M1を録りわすれたことに。
 まったくのノーマークでございましたよ。
 決戦はクリスマスイヴだと、根拠もなく決め付けておりまして…。
 こういうときなんですな。
 友だちがいないことが沁みるのは。
 気づいたときには時すでに遅し。
 ざまみろである。俺め。


 中学のときだったか。
 米飯給食の日に箸を忘れてしまって。
 で、給食がはじまろうというその直前まで、はてどうしようかと。
 鉛筆二本で食ったろかと。
 あたしゃ、そうあきらめていた。
 すると、
 学年にひとり大量に割り箸を持参してきた奴がいると。
 そんな情報が、忘れちゃった組を中心に行きかっているではないか。


 吉報なり。


 あたしゃそいつと面識もなく、クラスも違うというのに、ずうずうしく駆け寄って、
「俺にも貸して」
 のたまった。
 のたまっちまったのである。
 感動的なまでの、ぶしつけ具合ではないか。
 奴は、その勢いにのまれたのに違いない。
 なんせコトは飯にかかわるのだ。
 こっちの鼻息だってそーとーにワイルドだったはずだ。
 んで、
「お、おう」
 とそいつは割り箸を貸してくれた。
 というかそれっきりだから、有り体はもらい逃げである。

 
 やがてあたしゃ高校に入ったが、何の因果か、違う高校に進学したそいつと、バンドを結成するのである。
 ひょんなこととは、こういうことをいうのかと。
 友だちの友だちはみな友だち式の、再会であった。
 のちのちまで、コトあるごとに箸を借りに行ったときのあたしのずうずうしさを、彼はわらったものである。
 いまではとんと無沙汰になってしまったが、
 独りのほうが清々する、なんて姿勢でこれまでやってきたものだから、ホントに窮して右往左往すると、このときのことを思い出す。
 この歳では、もうあのころのように、ひょんなことで誰かとめぐり合うことは少ない。
 とうとう、ちびた自前の鉛筆で飯を食うはめになってしまったのだ。




 そんな人生だ。






 ・・・て、そこまで考えるか。俺は。
 M1録り逃したぐらいで。
 

 休日も、いつもどおりきちんとストレッチしたし。
 筋トレもサボらなかったし。
 一時間のウォーキングも、復路では久しぶりにジョギングにしたし。
 自炊で通したし。
 苦し紛れに、どうにかブログも更新したし。
 ね。
 なんじゃかんじゃ言っても、どーにかこーにか、だ。
 あたしなんか、どーにかこーにかで、やってくんだ。
 なんて思った途端にこうだからやんなってしまうぞ。


 ああ、
 それなりに質素にさ、律儀に日々を生きてんだから、たまには笑いたいじゃあーりませんか。
 プロの技術に酔いたいじゃないのよ。
 ねえ。
 んで、
 誰が勝つんだろ。

 



 ☾☀闇生☆☽