壁の言の葉

unlucky hero your key

届かない指。

 ケービ。
 切削オーバーレイ舗装工事に伴う車線規制現場。
 片交で信号一回ずつ交代に上下線を流す状況。
 その一回を待っただけのドライバーから通りしなに中指を立てられた。
 格好から見れば若い女性らしいが、顔はえらく老けて眠そうだった。
 いや、眠そうというより厭世的というか。


 小さいころから洋画などからすりこまれた知識として、そのサインが欧米では人を侮辱するものであることはあたくしも理解してはいる。
 んが、いかんせんこっちは生まれも育ちもニッポンなわけで。
 相手の人種もそれらしく見受けられるわけで。
 ましてや格好に不釣り合いなほどの老け顔である。
 だもんで、その侮辱は生理にまでは届かないのだな。すまないが。
 頭で理解しているレベル。
 欧米の、とりわけキリスト教圏の人たちが感じているであろう生理的な嫌悪感は、わかない。
 日本人にとってのタトゥのような、ファッションのようなものに見えてしまう。


 そして、渋滞に対する不満なら、我々ケービ屋を罵倒するのもお門違いだし。
 まいどまいど思うのだが、つっかかるならせめて現場代理人にしろよと。
 作業員でもいいよ。
 我々ケービ員なら、恐れ入って頭を下げるだろうと踏んだうえでの中指なわけでしょ?
 しかも、通りしなだから、やり逃げというチキン丸出しなわけで。


 古くなってひび割れてぼろぼろになった路面を補修しているのだから、あなたたちのためでもあるわけでございましょ?
 愛車の消耗も、軽減されるわけでございましょ?

 
 まあ、老け顔の彼女も、すでに覚えちゃいないだろう。
 本場なら、そのサインひとつでへたすりゃ血の雨がふることもあるでしょうし。
 気の短い奴なら殺すつもりでキレるでしょう。
 野球場なら乱闘になる。
 放送コードレベルでございましょ?
 これがアメリカンニューシネマのなかの出来事なら、ちょーしこいてすれ違いざまに中指サインをかました赤の他人に、問答無用に射殺されちゃったりするわけでございましょ?
 そんな公的な緊張があってこそ、ときとしてそれが痛快さや笑いとして緩和されているわけでございましょ?
 



 はてしてあの老け顔の女は、そこまでの覚悟でサインしたのでしょうか。
 信号一回待たされただけで。
 路傍のガードマンに。
 



 よかったね。
 その中指があたしの生理にまでとどかなくて。
 おかげで今日以降ものうのうと好きなだけ老け顔でいられるのだ。
 まあ、届かないからかましたんだろうけれど。
 ぜひぜひその態度、ブレずに海外でもやってほしいものであーる。




 追記。
 最近は外人のガードマンもいるからね。
 注意しましょうね。
 ネームプレートがイスラム系のカタカナ表記の人を、あたしゃちょいちょい見かけるよ。


 ☾☀闇生★☽