今日は早く終了するよ。
大概において、現場でこの言葉が発せられる日は、いいことがないよね。
経験上、その言葉通りになったことなど、そう無かった。
作業工程が少ない、という心の隙が作業員の動作を緩慢にさせるし。
時間のゆとりが効率化を軽視させる。
知らずに休憩を長めにとっているし。
なにかと「まあ、それはあとでやればいいじゃん」と。
時間あるんだから、と。
結果、ずるずると時間が押して。
油断を生むし。
押すにつれて苛立ちに変わってくる。
往々にして事故や怪我は、こういうときにおこるもので。
ましてや休日前などは、気持ちがすでに遊びに向かっているから、なおのこと危ないわけ。
案の定、終えてみれば定時である。
定時で終わったのだから当たり前であり、恩の字であるのに、なぜか損をした気分になってしまうのは、なぜよ。
朝の「早く終了するよ」があったがためである。
その時点で各々の気持ちのなかでは帰宅後、終了後の予定などを想定しているわけであり。
たとえそれが遊びの予定でなくとも、散髪に行こうとか。
振り込みしなきゃならないことがあったなとか。
予定がないにしても、そこにひとつの『自由』を想定してしまったわけであり。
それがおシャカになった損失感だけが残って、やれやれと。
なんだよー、と。
この日の現場もそうだった。
現場のトップが出てこれない、という状況で元請けからその言葉が発せられたのだ。
その一瞬から一気に場が和み、緩み、笑いに包まれたので、正直あたしゃ怖かった。
目の上のたんこぶから解放された休日前の小さな作業、ということで下っ端ヒラ職員は浮かれっぱなしで。
それでも危険作業であることには変わりがなく。
某テロカルト教団関連のギャグを連発して、まわりが引くのにかまわず、はしゃいでいる。
踊ってもいる。
歌ってもいた。
嗚呼。
馬鹿の下で、危険作業をさせられる不幸よ。
それでも一応、無事に一日を終えはした。
終えはしたがベテラン職人が指に小さな怪我をし、
必要な材料を用意し忘れていたことに気付いて、急ぎ買出しに出、
下っ端ヒラは緊急退避用の段取りをし忘れていたというポカを経て、案の定、定時をちびっと超えた残業である。
いつもはしないはずのつまんないミスを頻発させていた。
嗚呼。
それでも奴は、社員なのだなあと。
小さくない会社の、中年社員なのだなあと。
警備員や安全管理・相判担当をつかまえて、細かな作業手順、作業道具の使い方を熱弁していたり。
現場判断にまかせるべき荷降ろしの順番まで、演説している、その無駄。
嗚呼。
『最強伝説 黒沢』を思い出す。
監督者にはある種の威厳が必要だと思う。
といってもけっして堅苦しいものではなくて。
胸襟を開いた現場関係というのは必要なのだが、少なくとも品はどこかで保つべきかな。
昔、営業をかじったとき、上司に云われたことがある。
プレゼンの過程で客の心を開く作業を『ラポール』と呼ぶのだが、そこでしてはいけない話題が三つ。
それは、
一、シモネタ。
二、スポーツネタ。
三、政治・宗教ネタ。
男同士の場合、つい一は、してしまいがち。
よしみを深める第一歩。名刺のようなもの、と勘違いするのだが、人によっては不快になる地雷でもある。
ひと言にシモネタといっても趣向は人それぞれである。
相手も自分と同じ女好きで巨乳好きと思い込みがちだが、中には同性愛者だっているはずなのだ。
ましてやプレゼン中だし、仕事中だし、目標には契約というカネが絡む場でのことである。
そこでこの手の話をするセンスを嫌悪する人は、少なくない。
常に危険と隣り合わせの現場にも言えることだろう。
余談だが、首都高の火災。
現在のところの情報では、投光機についた塗料が発火の原因と聞く。
たかだか養生をおろそかにしただけの、極めて初歩的なミスである。
それがあんな惨事を生むのだから、シモネタで笑い転げているスキなど監督者にはないはずなのだ。
二は、贔屓のチームが違った場合、逆効果となる。
三もまた、同じ。贔屓の政党やイデオロギー、宗派、教義の解釈の違いで、要らぬ摩擦を生みかねない。
思うに、集団を相手にするリーダーならなおのこと、これらをみだりに侵さない節度が必要なのではなかろうか。
朝から自身の風俗歴とそこでの武勇伝を口角泡を飛ばして吹聴し、某テロカルト教団の布教ソングを赤塚不二夫キャラのポーズで歌う監督者のもとに、安全で迅速で確実な作業環境が実現できるだろうか。
居るだけで現場が程よくしまる。
監督者の重要なこの資質は、距離の保ち方に秘訣があるような気がしている。
追伸。
にしても、なにゆえいまどきそのネタなのか。
一週回っておもろい、って感じでもないしね。
誰ひとりのってこず、
ウケもしないのに終日それにこだわっていたよ。彼は。
☾☀闇生☆☽