本業のエロ屋では女優さんたちを複数招いてのイベントを開いた。
定期的に開催してはいるのですがね。
うちにとってはいつにも増して、より華やかな催しでございましたぞと。
なんつったって関東以外から駆けつけていただいた方もいたのだし。
なかにはファンらしき女性たちまでおられて。
そんなありがたいお客さんたちに加えてだ、
メーカーさん、
問屋さん、
仕切り屋さん、
メイクさんらと、狭い店内は関係各位のプロフェッショナルたちでごったかえしたわけでございますと。
あたしゃ現在の店に移ってまだ間もないということもあり、その誰もが面識のない方ばかりなのだ。
そのうえ、こっちは下っ端に他ならない。
先方にしても顔をつなぐ必要性が微塵もない。
つのるのは肩身のせまい想いばかりという。
だもんで、ハニワのように静かにしていた次第でござる。
誰とも言葉を交わさずにね。
いや、交わせずにね。
終始、お客さんの視界を遮らんようにしていたもんだから、何も見えんし。
おそらくは俺、要らなかったのだわ。
ええ。
終了して、皆さんが引き揚げた後の静かなことといったら、もお。
字義どおりの祭りのあと、かと。
でもまあ、
いろんな人間模様があって、面白かったな。
差しさわりがあるので、具体的には触れられませんが。
人の集まるところ、多かれ少なかれ必ずドラマがあるもので。
それはお客さんにも、
スタッフにも、
女優さんたちにもね。
どんな世界でも、
してそれは自覚している、していないには関係なく、プロというものは代用のきかない存在を目指しているものなのですが。
常連さんにお願いした会場のスナップ写真のなかに、場の不意をねらっているのがありましてね。
これがまた、そんなプロ事情を捉えている秀逸なデキなのだな。
商売用に練磨された『見られる表情』よりも、見る側になってふと気を抜いたときの視線のやりとりに、ともすれば見逃されそうな小さな小さなドラマがね、
ありましたとさ。
そりゃあさ、
あるさ。
横顔こそ、雄弁なのです。
でね、
そんな華やかな一日を終えると、途端にダブルワークの地味ぃな日々が待っているという闇生だ。
ケービ士。
翌日。指定時刻に現場へ到着するには、朝の六時に家を出なければならないようなことになっていて。
仕事は隊員二名での新築現場の警備である。
ところが、現場に着いてみると、なんと自分を含めて三名も集まってしまった。
俺、要らねえな。
すかさず確認をとると、指示の変更を怠った本部の失態であることが明らかになる。
んが、
そうとわかったところで、なんなんだ。
現場としては余分な者はやはり、余分なのである。
ともかくもあたしが引き返すことになって、その日は突然の休日という流れになった。
がっくしきたさ。
しょぼぼん、ともなったさ。
けど、せっかく暇ができたのだからと、あきらめるしかなく。
そこはひとつポジティヴに、
「あらよっと」
潔く切り替えちまうの術でなのあーる。
あれこれと一日の構想を練りつつ、にんまり、のんびりと各駅停車で帰路をたどった。
山田風太郎を読みながらね。
して、ようやく我が侘び住まいに着こうとするそのときだ。ケータイに本部から連絡が入ったのは。
至急、別の現場についてくれとのこと。
何を言うか、このっ。
このこのっ。
その時点で、すでに先方の作業開始時刻を過ぎているじゃないのよ。
こちらの事情はどうであれ、現場の監督さんに直接平謝りするのは、うちらである。
出会いからしてマイナスだ。
そんな損な役回りなんて、ねえ。
しかも一旦は休日モードにテンションをギアダウンしてもいるものだから、気が進まぬし。
といって、
背に腹は代えられぬといった哀しき事情もあって。
もとい、おほんっ。
プロとしてだ、
しぶしぶ指示に従って現場に向かったと。
遅刻すること、一時間。
平身低頭して、さっそく勤務を開始したのではあるが。
なんと、基礎に流し込むコンクリートが、想定よりだいぶ少ない量で足りてしまうという展開になる。
予定では出入りするミキサー車の誘導に半日を使うはずであったとか。
それがなんと正味三時間で終了だもの。
それでも一勤務は一勤務のお給金ということでえ。
えへ。
なんだろ。
得してしまったのよ。
この日組んだお相手は、かなり御年配のベテランさんだ。
彼もまた今朝になって突然呼び出されたのだそうだが、この事態に顔をほころばせ、ホクホク顔で肩を叩いてくださった。
「前の仕事がキャンセルされて良かったじゃないのお」
ええ。
まあ。
きっとそんなものなのだ。
すげ替え可能な身分なら、そんな身分なりに、おいしいことがあってもいいじゃんかと。
だはは。
だはははは。
おつかれっした。
帰宅して、
余った時間でレンタルしていたDVDを観る。
『ザ・フォール 落下の王国』
自殺願望のスタントマンが紡ぎ出す、アラビアンナイトだ。
アラビアンナイトが、処刑を免れようと千一夜にわたって紡ぎだされた物語であるのに対し、これは死ぬために編みだされる物語。
彼はスタントという、言わば代用を生業としながら、自殺願望を抱いている。
あろうことか、その仕事で怪我をして動けない。
そこで彼は大量のモルヒネを手に入れようと、物語をして少女を手なずけるのだ。
感想は、また後日に。
☾☀闇生☆☽
横顔に代用はない。
そういうあたしの横顔こそ、いったいどんなんだと。