「いびき、うるせえよ」


 そう言われたことありませんか。
 恥ずかしながら闇生はあるのでございますですよ。
 はい。
 十代から二十代にかけて。
 そればかりか、時々それが止まって心配になるとまで。


 睡眠時無呼吸症候群


 ひょっとしたらそれではないかと、ずっと疑っていたのである。
 んが、
 これの厄介なのは自覚が困難だということ。
 重度のそれなら日中に気を失うほどの睡魔に襲われて居眠り、なんてことになるのでしょう。
 けれど、大概のひとはそこまでではなく、睡魔も座るとついウトウトというレベル。
 これだと普通の疲労と紛らわしい。
 あるいは慢性的な倦怠感だったり、朝からの頭痛だったり。
 いずれも日常生活に支障をきたすものではないので、いつしかそれも慣れっこになってしまう。
 俺の体質はそんなものだと。
 ところがこれを長年放置しておくと、肥満や高血圧や脳梗塞心筋梗塞などのさまざまな合併症を呼び寄せてしまうらしいのだ。
 就寝中の酸素不足から動脈硬化はむろんのこと、もろもろの老化を早めてしまうという、恐ろしいものなのであーる。
 

 不肖闇生の場合。
 長年独り身をこじらせておるので、忠告の愛にめぐまれない。
 わかるでしょ。
 いびきのことですから。
 だもんで、これも自力で意識するほかないのだ。
 日中の睡魔は、業務に差し障るほどではない。
 ただひどい倦怠感のある日がある。
 それと一番気になったのが、就寝中の口の渇きだ。
 舌が、ざらざらに干からびるほど。
 鼻が干あがると書いて『鼾(いびき)』とはうまくあてたもので。
 それは酒を飲まない日でも、変わらない。
 そして、激しい動悸で目が覚める。
 それこそアレックス・ヴァン・ヘイレンのツーバスのようにドコドコドコドコドコ。
 実は、これが一番怖かった。
 不整脈も疑ったが、昼寝も含めた睡眠時にしか起こらないので、やはり無呼吸かと。


 現在、失業を目前に控えてはいるものの、それが更なる減給と引き換えにわずかだが先延ばしになった。
 ならば、低くても収入が安定しているうちにと、このたび検査に踏み切ったという次第。
 それを専門にしている病院があるのですね。
 電話で予約を入れて、さっそく行ってきました。


 診察のまえに、アンケートに記入。
 そこでは睡眠時の無呼吸を疑った根拠やらを問われる。
 それから自動の機械で血圧を測り、
 体重を量る。
 身長、
 心電図、胸部レントゲン、骨格筋量、体脂肪量、体脂肪率、ウェスト・ヒップ比、筋肉バランス。
 その他、タンパク、ミネラル、脂肪量の栄養評価、
 体重管理、身体バランスなどなど。
 総合的に調べ上げる。
 両手両足の血圧から血管の弾力や詰まり具合を割り出して、例の血管年齢まで調べた。
 喉の内部の空間を見たり。


 で結果はというと、良好もしくは標準だった。
 栄養、体重、肥満、身体バランス、身体強度、健康評価はすべて青信号で。
 担当の女医さん曰く、これまで自分の診てきたなかでは、ひとつもひっかからないのは十人くらいしかいなかったとのこと。
 強いて言えば、両腕がもう少し太くてもいい。
 逞しくあってくれと。
 体脂肪も、もう少し付いてるほうがいいらしいが、それも標準値内でのことだ。


 ほっとする。


 血管年齢はというと、実年齢相応だそうだ。
 ううむ、実年齢より若くありたかったが、まあ良しと。
 欲を言っちゃいかんよ。
 で、足の血管の詰まり具合。
 仕事がら、一日十二時間は立ちっぱなしである。
 だから、将来はふくらはぎにぼこぼこと硬化した血管が浮き出てしまう覚悟である。
 けれど、これも正常範囲。


 にんまりする。


 それでやっと診察とあいなった。
 それら資料を挟んで、担当医と作戦をたてる。
 まずね、肥満してないのにいびきをかくという点。
 これのおおよその原因は自分でわかっているのね。
 まず、鼻の穴。
 見た目は普通なのだが、覗くと左右で穴の広さが違う。
 右が普通で、左はほぼ塞がっている。
 手で左の頬を軽く横にひっぱると、抜けるが。自力の呼吸では、左の鼻の穴は役割を果たしていない。
 おそらく、子供の時に鼻の骨を折ったのが原因ではないかと思っている。
 バットの素振りをしていた友だちの背後に駆け込んで、こつんとやってしまった。


 加えて慢性的な軽い鼻炎。
 鼻水びろびろというのでもなく、ちょっと濡れている感じ。
 で、しょっちゅう詰まる。
 横になると特にそうで。
 だから口で息をする。
 いびきになる。


 さらに子供のことから扁桃腺を腫らしまくったせいか、口をあけると喉ち○この両サイドに、それこそ喉キ○タマのごときブツが侍っているのであーる。
 しかも担当医の言うことにゃ舌が通常の人より分厚く大きいのだそうだ。
 なんてイヤらしい口なんだ、俺ってば。
 人前で大口をあけてあくびなんぞしたら、犯罪者である。
 そんな淫乱が幅を利かす口内事情のおかげで、空気が肩身の狭いおもいをしているというのだ。


 それとね、
 あがってきた肺のレントゲン写真で、おもわぬことがわかった。
 右の肺に水がたまったあとがある、と。
 まるで覚えがない。
 煙草は二十四歳と十カ月ですっぱりやめたし。
 そこに痛みらしいものもなかったと思う。
 たまった水が、治癒するにつれて少しずつはけて、どろどろになって肺のそこで煮こごりのようになっている。
 そんな状態なのだそうだ。
 少なくとも四、五年はまえのものではないかと。
 これは無呼吸とは関係のないものだという。
 そうはいっても心配なので、検査がしたいと申し出ると、即座に紹介状を書いてくれた。
 すぐ近所にCTスキャンをやってくれる病院があって、その場で予約も取ってくれた。
 造影剤なしの胸部のみで、即日やってくれるとのこと。


 それはさておき、
 睡眠時無呼吸症候群
 決定的なチェックは、病院に宿泊して、睡眠を機械と医師に監視してもらわなければならない。
 けれど法改正があって、まずは自宅で簡易検査をすることになっているのだそうだ。
 ケータイふたつ分くらいの大きさの装置を持ち帰って、就寝時の鼻の呼吸と脈拍などを測定・記録する。
 ふた晩それをやって、病院に機械を送り返す。
 それで次の診察までにデータを解析してくれるというわけ。
 しかしこれ、先に述べたようにあたしゃほとんど鼻で呼吸ができていないからねえ。
 ま、ともかくも次の診察で、今後の方策をきめるのですが。
 おそらくは宿泊検査を経て、
 重度のものなら、呼吸をたすける器具をつけることになる。
 経度なら、マウスピースをこしらえて下顎を前に突き出させ、睡眠時の気道を確保。
 それ以外の選択は、外科的にと。



 ああ、早く快眠生活を手に入れたいものである。






 ☾☀闇生☆☽


 看護婦さんも医師も、丁寧で心地よかった。
 病院全体が、安眠を誘うような、そんな空気だった。
 初診を終えて、肺のCTスキャンをとりに別の病院へ。
 そこはそこで、また違った雰囲気。
 丁寧だが、担当の女医さんは肩で風切っていくようなオーラ。
 ちっちゃな体でてきぱきと、時折タメ口になる気風のいい人。
 組織の空気っていうのは、知らずに不思議な統一感を生んでいるもので。
 それって何が決定するのでしょうね。
 社風とか、トップの人柄とか、いろいろあるんでしょうが。
 おもしろいなあと。


 追伸。
 出費は痛かった。
 初診で、しかもまず検査がいろいろありましたので。
 最近健康診断を受けた方は、そのデータを提出すれば済むらしい。
 それのないあたしの場合は、9,790円。
 +胸部、造影剤なしのCTスキャンがこちらも初診で7,310円。
 でもね、こういう機会でもないと、ね。放置してしまうでしょ。
 睡眠時無呼吸症候群は平均寿命を縮めてることが、明からになってるそうですし。