壁の言の葉

unlucky hero your key

美しさ。


 そうありたいと思う。
 そう思って書き続けてもきた、つもりだった。
 美しさってのは、そういう無我の一瞬に現れるものだから。


 中学には弓道部があった。
 校庭の東端に武道場と棟を同じくする弓道場があって。
 あたしゃサッカー部に所属していたのだが、先輩が蹴り損ねたボールを拾いに走るたびこの付近に立ち寄った。
 フェンス越しに見えたその光景。
 道着に身を包んだ同級生たちが並んで弓を射ている。
 きりりとした居住まいも、その形式にのっとった所作も、ふだんの彼らとは見違えるようだった。
 なによりも射る瞬間の眼差し。その真剣な面持ちは、見られているという意識から完全に抜け出しており、口の悪い男子生徒たちが口々にブスと揶揄してやまぬ女子でさえその瞬間は感心するほどの美しさを誇る。
 それは侵してはならない、いや侵すことを憚られる強さだ。


 無我、ゆえか。

 
 けれどあたしの場合、年甲斐もなく伸ばしきった鼻の下は行間からはみ出してしまうようで。
 その生臭さが人を遠ざけてしまうのだ。


 木霊すら返らぬ無音の森の底。
 その旅を愉しめるようになるのがこれからの目標なのです。



 


 美しい、と。





 ☾☀闇生☆☽